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九、任務遂行
一
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それから数日後、小春日和の華殿には、美男美女の姿があった。
二人は竜胆の花を眺めながら、肩を並べ、仲睦まじく語り合う。
「まぁ、雲嵐様ったら、博識なのですね」
「暇を持て余しておりますから、つい読書に耽ってしまうだけですよ」
雲嵐は趣味の読書から得た知識を披露し、翠玉はそれを褒め称える。
同じ年頃の二人は、はたから見れば夫婦のようだ。
そんな彼らに付き添いで来たのは、宦官の和と、女官の枕里。
二人は離れた場所から翠玉と雲嵐を見守っていた。
声が届かない距離にいるので、なにを話しているのかわからない。
雲嵐の女癖の悪さを知っている和は、いつものことだといった感じだが、枕里の方はそういうわけにはいかない。
陛下の寵妃である翠玉が、他の男と親密そうにしているのを見れば、ハラハラする。
しかもそれが暁嵐の弟ともなれば、なおさらだ。
かといってそばに行って止めることもできず、聞き耳を立てることもできない。
そんなわけで、翠玉から雲嵐への手紙も、枕里が届けたのだ。厳密には、門番に託けを頼んだ。
真面目な枕里は内容を気にしながらも、手紙を覗き見することはなかった。
凛玲の目利きはさすがである。
翠玉から手紙を受け取った雲嵐は、喜んですぐに返事を書いた。
またそろそろ、翠玉を華殿へ誘おうと思っていた。ちょうどいい頃合いに翠玉からの誘いがあり、気をよくしたのだ。
そうして現在に至る。
翠玉と雲嵐はしばらく、取り留めのない会話を楽しんだ。
誰に聞かれても、問題ないような内容だ。
だが、もちろん二人は、そんなことを話しに来たわけではない。
いきなり本題に入るのは無粋だとわかっているのだ。
余裕のある者は、戯れを楽しむもの。
翠玉はそんな雲嵐に合わせ、その時を待っていた。
強引に仕掛けては、せっかくの獲物が逃げてしまう。
翠玉は注意を払いながら、貴婦人のように優雅に笑う。
雲嵐は紳士的な所作で、短い橋を下る。
その時、翠玉が動いた。
「あっ……」
橋を下りようとしたところで、翠玉が躓いた。
すると前を歩いていた雲嵐が、すかさず振り返って手を伸ばす。
「おっと」
前に転びそうになった翠玉を、雲嵐が抱き止めた。
実に自然な演技に、雲嵐はまんまと騙される。
二人は竜胆の花を眺めながら、肩を並べ、仲睦まじく語り合う。
「まぁ、雲嵐様ったら、博識なのですね」
「暇を持て余しておりますから、つい読書に耽ってしまうだけですよ」
雲嵐は趣味の読書から得た知識を披露し、翠玉はそれを褒め称える。
同じ年頃の二人は、はたから見れば夫婦のようだ。
そんな彼らに付き添いで来たのは、宦官の和と、女官の枕里。
二人は離れた場所から翠玉と雲嵐を見守っていた。
声が届かない距離にいるので、なにを話しているのかわからない。
雲嵐の女癖の悪さを知っている和は、いつものことだといった感じだが、枕里の方はそういうわけにはいかない。
陛下の寵妃である翠玉が、他の男と親密そうにしているのを見れば、ハラハラする。
しかもそれが暁嵐の弟ともなれば、なおさらだ。
かといってそばに行って止めることもできず、聞き耳を立てることもできない。
そんなわけで、翠玉から雲嵐への手紙も、枕里が届けたのだ。厳密には、門番に託けを頼んだ。
真面目な枕里は内容を気にしながらも、手紙を覗き見することはなかった。
凛玲の目利きはさすがである。
翠玉から手紙を受け取った雲嵐は、喜んですぐに返事を書いた。
またそろそろ、翠玉を華殿へ誘おうと思っていた。ちょうどいい頃合いに翠玉からの誘いがあり、気をよくしたのだ。
そうして現在に至る。
翠玉と雲嵐はしばらく、取り留めのない会話を楽しんだ。
誰に聞かれても、問題ないような内容だ。
だが、もちろん二人は、そんなことを話しに来たわけではない。
いきなり本題に入るのは無粋だとわかっているのだ。
余裕のある者は、戯れを楽しむもの。
翠玉はそんな雲嵐に合わせ、その時を待っていた。
強引に仕掛けては、せっかくの獲物が逃げてしまう。
翠玉は注意を払いながら、貴婦人のように優雅に笑う。
雲嵐は紳士的な所作で、短い橋を下る。
その時、翠玉が動いた。
「あっ……」
橋を下りようとしたところで、翠玉が躓いた。
すると前を歩いていた雲嵐が、すかさず振り返って手を伸ばす。
「おっと」
前に転びそうになった翠玉を、雲嵐が抱き止めた。
実に自然な演技に、雲嵐はまんまと騙される。
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