後宮の暗殺者~殺すつもりで来たのに溺愛されています~

碧野葉菜

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八、戒めを解き放つ命令

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「皇后の美雨が、あなたを殺そうとしているなんて」

 翠玉の魅惑の唇からこぼれ落ちた、皇帝暗殺の陰謀――その真実に、暁嵐は瞳を大きく開いた。
 静かな時が流れる。秋風が紫の花畑を撫で、竜胆の花びらが宙を舞う。

「美雨が……わしを……?」

 暁嵐は、翠玉が今まで見た中で、一番驚いていた。
 疑うなら嘘を申すなと言うか、信じるなら怒りに囚われるか……しかし、暁嵐の反応は、翠玉が予想しているものではなかった。

「……理由は、雲嵐、か……?」

 耳を澄まさなければ、聞き逃すほどのささやかな声で、暁嵐は弟の名を告げた。
 翠玉は先に暁嵐の口から、その名が出たことに驚いた。

「知っていたの? 美雨と雲嵐の仲を」
「……以前、司馬宇から聞いたことがある。華殿の見張りをしている宦官が、雲嵐と美雨が頻繁に会っていると話していたと……じゃが、それ以上のことは知らなんだ、知ろうともせず、今になって、ようやくそんなこともあったと思い出したくらいじゃ」

 人の口に戸は立てられない。
 その時暁嵐が疑い、追及していれば、もっと早くにこの事態に気づけたかもしれないが……。

「美雨と雲嵐は男女の仲よ、女官たちの間では有名な話。特に美雨の雲嵐への執着は常軌を逸しているわ、女好きの雲嵐が靡きそうな皇妃を、次々に殺害している、実際私も毒を盛られたわ、上手く回避したけれど」
「……そのようなことが……」

 これには暁嵐は、苦悩の表情を見せた。
 暁嵐は一番に、自分を責めている。管理外とはいえ、自身の行動で食い止められた罪があったのではないかと。
 翠玉は暁嵐のそんな思いを汲んでいた。
 皇帝は一人しかいない。なにもかもできなくて当然なのに、バカなお人だと……。

「あなたは、気づかなかったんだわ、皆を平等に扱うゆえに、美雨だけよく見ることはしなかった」
「……仮に勘づいたところで、わしは責めることも、止めることもせんかったじゃろうな……美雨の気がまぎれるならばと、ある程度は目を瞑ったであろう……しかし」

 暁嵐のこめかみに血の管が浮かぶ。
 夜叉のように鋭く尖った目には、国の統率者としての怒りが滾っていた。

「よもや、国を揺るがす事態になっておるとは……放っておくわけにはいかぬ、皇帝の命は皇帝の者だけではない、わしが死ねば国が傾く、楊の民のためにも、そのような根は絶やさねばならん」

 その気迫は、暗殺者である翠玉さえ息を呑むほどであった。
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