後宮の暗殺者~殺すつもりで来たのに溺愛されています~

碧野葉菜

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八、戒めを解き放つ命令

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 暁嵐は華殿の中心となる、小高い場所で足を止めた。
 白い西洋風の屋根と机、対になった椅子が置いてある。以前、翠玉が雲嵐と話をした場所だ。
 その先端で、暁嵐は華殿全体を見渡した後、空を仰いだ。
 暁嵐の遥か彼方、漆黒の闇に浮かぶ、白く丸い月。
 そういえば、翠玉がわしを襲ったのもこんな夜であったな――。
 暁嵐がそう思った時、ふと、月が雲に隠れる。
 月明かりが閉ざされた刹那、暁嵐は突如として訪れた気配に囚われた。
 暁嵐の腰を掴む手、そして、喉元に当てられた手刀。

「あの時、あなたを殺せていたら、こんなことにはならなかった」

 暁嵐は背後から聞こえる声に、ふっと薄く笑った。

「じゃが、殺せなかった……今は、殺さない、か……」

 暁嵐は喉元に当てられた手を握り、素早く振り返ると、背後に立っていた翠玉に勢いのまま口づけた。
 翠玉はかわせなかった……いや、かわさなかった。
 戦慄く手はすぐに鎮まり、暁嵐の背に回された。
 翠玉の手はもう、暁嵐を殺すためではなく、愛することでしか機能しなくなっていた。
 互いを貪るような激しい口づけの後、暁嵐は唇を離すと、翠玉の目を覗き込んだ。

「翠玉、愛しておるぞ、わしはお前のすべてが知りたい」

 口調は優しいが、その射抜くような紅い眼差しは、強制に等しい。
 幼い頃から命令する側であった絶対君主。
 命令が原動力である翠玉にとって、暁嵐の性質はこの上なく相性がよかった。
 翠玉は暁嵐の背からするりと手を滑り落とすと、すべてを話すために口にを開いた。

「……今日、皇后様の城で亡くなった女官……梓凛玲は、私の友であり、仲間であり、唯一の家族だった……」

 暁嵐は驚かなかった。むしろ、どこか納得したような面持ちだった。

「……そうか、ならばその凛玲が、暗殺の依頼を引き受ける役割を担っておったのか」

 翠玉は思わず顔を上げ、食い入るように暁嵐を見た。

「知っていたの……!?」
「いや、誰が、というところまでは知らなんだ、じゃが、お前の襲撃はあまりに計算し尽くされておった。建物の配置や、見張りの位置など、すべてわかった上でなければ不可能であろう。となれば、宮中に仲間がおり、その者から情報を得たと考えるのが当然じゃ」

 暁嵐の的確な見解に、翠玉の肩の力が抜ける。
 なんだ、そこまでわかっていたのかと、なんのために必死に隠していたのかと、翠玉は自分が間抜けに思えた。
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