後宮の暗殺者~殺すつもりで来たのに溺愛されています~

碧野葉菜

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八、戒めを解き放つ命令

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 やがて日が沈み、深い夜が訪れると、暁嵐は司馬宇を連れ城を出た。
 行燈が灯る道を歩き、翠玉と約束した場所へ向かう。
 華殿は通常、夕刻には閉まる。
 だが今夜は特別に開けることにした。
 今日、華殿の戸締りを担当した宦官から、司馬宇が鍵を受け取ってきた。
 なにに使うのか、などと問われることはない。皇帝付きの宦官である司馬宇は、宦官の中では最も位が高いのだから。
 翠玉は自分が誘えば、暁嵐はどうにかして華殿にやって来るとわかっていた。
 その上で、暁嵐を深夜に招いたのだ。
 そして、そんな翠玉の考えを、暁嵐も司馬宇も察していた。
 夜遅くの宮中は、門番や見回りの者が数人いるくらいで、ひっそりと静まり返っている。
 暁嵐と司馬宇は行燈が灯す道を歩き、やがて華殿に辿り着いた。
 司馬宇が華殿の鍵穴に鍵を差し込み、右に回して開錠する。
 するとカチャリと小さな音がして、鍵はしっかりかかったままであったことがわかった。
 しかし、こんな扉など、翠玉にとってはなんの意味もないだろう。
 司馬宇はそう思いながら暁嵐を振り向くと、暁嵐もまた、同じ思いで小さく頷いた。
 司馬宇に開かれた扉の先へと、暁嵐は足を踏み入れる。
 暁嵐が中に入ったのを確認すると、司馬宇は頭を下げ、再び扉を閉めた。
 これで、華殿の中にはもう誰も入れない。
 兵士として戦果を上げた、最強の宦官が見張りをしているのだから。
 暁嵐は辺りを見渡しながら、緩やかな華殿の道を歩いた。
 小さな橋と、その下をさらさらと流れる小川。ところどころに目にする、天使や女神を模した白い陶器の置き物。
 庭園一体を埋め尽くす竜胆の花を、角灯の明かりが妖しく照らしている。
 この場所は、宗教も年齢も問わない、そんな自由な空間にいたしましょう。
 暁嵐の母親である皇太后が、皇后の時にそう言った。
 舶来品を好む皇太后が、西洋を意識して作った花園だ。
 宮中にこもりきりの婦人たちの憩いの場になればと、皇太后の気遣いでできた場所だというのに。
 まさか暗殺の取引きに利用され、姦通の手助けをすることになるとは、発案した皇太后も浮かばれないだろう。
 暁嵐は完成時以来、約二十年ぶりに華殿を訪れた。
 暁嵐は記憶力がいいので、なにがどこにあったのか、細かい部分まで覚えていた。
 やや老朽化は見られるものの、味と取り許せる程度だ。
 しかし橋や長椅子などは、安全面を考慮して修繕すべきかとも考えた。
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