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八、戒めを解き放つ命令

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 事件があった日の夕下がり、赤い城の二階では、暁嵐がふぅと一つ息をついていた。
 壁面を本棚が埋める、広々とした書斎だ。暁嵐は端にある立派な椅子に座り、机と向き合っていた。
 暁嵐の目の前、大きな机の上には、分厚い冊子がいくつも積まれている。
 資料に目を通し、少しでもおかしなところがあれば訂正案を出す。納得して初めて捺印し、確認済みの方に冊子を重ねていく。
 暁嵐は要領がいいので、任せられることは、信頼している臣下に任せる。
 だが、重要なところは絶対に人に頼らず、自分ですべてやり遂げる。
 なにもかも皇帝が背負って倒れてしまっては元も子もない、かといってなんでも臣下に任せれば皇帝の意味がない。
 皇帝の威厳を保ちつつ、上手く臣下を使うのが、暁嵐のやり方だ。
 しかしこのところ、暁嵐の優先順位に大きな変化があった。
 ――コンコン。
 暁嵐の資料確認が一段落したところで、扉を叩く音がした。
 
「司馬宇でございます」
「入れ」

 暁嵐の返事で、司馬宇が扉を開ける。
 暁嵐は司馬宇には見向きもせず、次の勤めにとりかかろうと歴史書を開く。
 司馬宇は赤を基調とした部屋に入ると、暁嵐のそばで足を止めた。

「陛下宛に手紙を承っております」
「なんじゃ、急ぎでなければ後にせよ」
「翠風からですが」

 その名を聞いた瞬間、暁嵐は動きを止め、大きくした目で司馬宇を振り向いた。

「なに、翠風からじゃと!?」
「門番伝いに届きましたので、私が預からせていただきました」
「それを先に申せ!」

 司馬宇が差し出した手紙を、ひったくる勢いで掴み取る暁嵐。
 先ほどまでのキリッとした雰囲気はどこに行ったのか、無邪気に喜ぶ暁嵐は、まるで少年のようである。
 公務に集中している時は、どうにか切り替えているが、翠風の名前を聞くと、一気に気持ちが引っ張られてしまう。
 長く一緒にいる司馬宇は、こんな暁嵐が新鮮であった。
 国のため、民のために、何事にも平等に勤めてきた暁嵐が、初めて個人の想いを露わにしている。
 翠玉からの手紙をいそいそと開け、じっと読み耽る暁嵐を見ていると、司馬宇は微笑ましい気持ちになった。
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