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八、戒めを解き放つ命令

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「皇后様はいずれわたくしを捨てるつもりだったのだと、気づきました。わたくしは知りすぎたのです。雲嵐様との仲を取りもち、お二人が密会できる機会を作りました、皇后様が後宮にいた頃は、門番に賄賂を渡し、夜な夜な雲嵐様を皇后様の御殿に招き入れ、祭典の時は宴に乗じて人の目のつかない場所に誘導し、旺玖院に移られてからも、雲嵐様の部屋に渡られる手伝いをしました。そして、雲嵐様が惹かれそうな、若く美しい皇妃様を……殺害するよう命じられ、そのようにいたしました……」

 青静は窪んだ目で、唇を噛みしめた。
 青静の証言は、翠玉の推測の裏付けとなった。

「後宮と旺玖院を繋ぐ、抜け道のようなものは知らない?」

 翠玉の質問に、青静は頭を捻らせた後、首を横に振った。

「……いえ、そのようなものは存じ上げません。いっそ抜け道でも作り、互いに勝手に行き来してくだされば、どれほど楽だったことでしょう」

 以前、雲嵐が言っていた『秘密の場所』……それは十中八九、後宮と旺玖院を繋ぐ裏道のことだ。
 しかし、わざわざ青静を使って相瀬を重ねていたなら、美雨は秘密の通路を知らないらしい。
 雲嵐はあえて、美雨に黙っていた――?
 雲嵐と美雨、二人の関係性が、徐々に翠玉の中で鮮明さを増してゆく。

「あのお方は人の皮を被った化け物にございます、最初は皇后様付きの女官になれるなどと歓喜しましたが、皇后様はわたくしを迎えられた日に、こうおっしゃられたのです……『あなたのような醜女を私のお付きに指名してあげたのだから、命をかけて忠義を尽くしなさい』と――」

 青静は当時を思い出し、膝の布を強く握りしめた。
 そしてその後、凛玲の顔を浮かべ、苦しげに顔を歪めた。

「なぜ、よりにもよって凛玲が……わたくしに毒殺の罪を被せるために、たまたま連れてこられたのが凛玲だったなんて……凛玲はいい子でした、わたくしのような、女からも毛嫌いされる醜女にも優しく、私の料理が一番だと褒め、慕ってくれました……なのに、あのようなことにっ……」

 青静の腫れぼったい目から涙が流れ落ちる。
 翠玉はその雫をじっと見つめた。
 誰かを思い流す涙の美しさ、そして命の尊さを、翠玉は初めて知った気がした。

「青静も、凛玲のことが好きだったのね」
「はい、わたくしだけではなく、他の女官たちも慕っておりました……わたくしは実家の母が病弱で、妹がまだ幼いため、わたくしが働かねば皆生きていけません、女官の職を失わないため、皇后様に逆らうことができませんでしたが、今までの行いは、どんな理由があっても許されることではありません……裁かれるのは、罪を犯したわたくしだけで十分だったはずなのに……!」

 青静の言葉は、凛玲の存在を表していた。
 きっと凛玲の生きていく糧は、暗殺なんかじゃなくてよかった。
 ここで居場所を見つけたのは、なにも翠玉だけではない。凛玲だって女官として、人として、多くの者たちに必要とされていたのだから――。

「わかったわ、青静、話してくれてありがとう」

 翠玉は立ち上がり、青静に背を向けた。
 その瞳にはもう、一切の迷いはない。
 
「あなたは助けてあげる……凛玲のために涙を流してくれたから」

 翠玉の手にした、蝋燭の火が消えた。
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