後宮の暗殺者~殺すつもりで来たのに溺愛されています~

碧野葉菜

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八、戒めを解き放つ命令

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 後宮や旺玖院とは別の区画、宮廷から切り離されたような奥深くに、黒っぽい石造りの建物がある。
 その一階は処刑場、地下は牢獄になっていた。
 翠玉はそこの番人に許可を取ると、渡された蝋燭を手にし、処刑場の脇にある階段を下りてゆく。
 やがて辿り着いた地下室には、鉄格子の牢屋が並んでいた。
 窓がなく薄暗い、陰鬱で煤けた空気が漂っている。
 翠玉は片手に持った蝋燭の火を頼りに、目当ての人物がいる牢屋に歩み寄った。
 鉄格子の向こう、ボサボサの髪で自身を抱きしめるように丸まっている、女官用の衣を着た大柄な女性。彼女の前で、翠玉は立ち止まり声をかける。

「青静」

 名を呼ばれた青静は、膝に埋めていた顔を持ち上げた。

「……翠、風様……?」

 翠玉は青静と同じ目線になるよう、鉄格子の前で屈んだ。
 投獄された時の暴れた形跡だろうか、青静の衣は汚れ、乱れていた。

「青静に聞きたいことがあって来たの」

 翠玉の蝋燭の火が、真実を映し出そうと揺らめく。

「あなたが、凛玲を殺したの?」

 青静は目を見開き、わなわなと震えながら、這うように翠玉に近づいた。
 そして両手で鉄格子を握りしめると、涙ながらに翠玉に訴える。

「いいえ、いいえ、いいえっ、違いますっ、わたくしではございません、天地神明に誓って、わたくしではございません……!!」

 翠玉は、青静の様子にさらなる確証を得た。

「あの時、なにがあったのか、話して」

 真に迫る翠玉の瞳に、青静はすべてを話そうと決意する。
 どうせ死ぬならば、打ち明けてからの方がいいと。

「……皇后様に、団子を作ってくれと言われました、ただ、餡は自分で包んでみたいから、そのままにしておいてほしいと……、それから後宮の様子を、自分に代わって見てきてほしいと言われました……、いつもはおっしゃらない命ばかりでしたので、不思議に感じていましたが……」
「おかしいと思ったところで、あなたに拒否権はない、そうでしょう?」
「は、はい、その通りでございます」

 女官の立場で考えた発言をする翠玉に、青静は微かな感激を覚えた。

「わたくしが城に戻ると、宦官たちに捕らえられ、牢屋に入れられました……一体なんのことかと問うと、皇后様に対し毒を盛った罪と、その毒味役を担った女官を殺した罪で極刑だと言われ……」

 やはりと翠玉は思った。
 今までの皇妃殺害は目立たないよう、お茶を使っていたが、今回は固形物であえて証拠を残すようにしたのだ。
 用済みの青静に、毒殺の罪を着せるために。
 青静は鉄格子から離した手を、正座した膝の上に置いた。
 そして、自らの本当の罪を洗いざらい白状する覚悟をした。
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