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七、真実
十三
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「どうぞ、翠風様、司馬宇様に許可をいただいたので、お通りください」
「どうもありがとう」
ふわりと天女の微笑を浮かべると、翠玉は門を通過して後宮から旺玖院に足を踏み入れる。
すると門が封鎖され、旺玖院側に立った門番二人が翠玉に頭を下げた。
翠玉はすぐに司馬宇を見つける。
赤い城の前で、番人のように立っている司馬宇。
彼も翠玉を見ており、遠巻きながら二人の視線が交わっていた。
翠玉は玉砂利に囲まれた、石畳みの道を歩き、司馬宇の元に行った。
「どうした、翠風から来るとは珍しいな」
口の利き方を気をつけた方がいいと思いながらも、やはり翠玉に対してはタメ口になってしまう司馬宇。
暁嵐や翠玉から正されることもないので、これはこれで問題なさそうだ。
「陛下に話したいことがあるのよ」
「そうか、だが陛下は今会議中だ、始まったばかりだからな、まだ時間がかかるぞ」
ゲッとあからさまに嫌そうな顔をする翠玉。
なんで肝心な時に会えないんだと言いたげな顔だ。
暗殺者という職業柄、感情を殺すことが多かった翠玉だが、実は表情豊かなのかもしれない。
もちろん時と場合によるが、司馬宇の前では翠玉もあまり我慢しなくなってきた。
「そこをなんとか、たっぷり奉仕して差し上げるから、今すぐ出てきてって言ってよ」
「お前は陛下をなんだと思っとるんだ……」
若干偉そうに食い下がる翠玉に、あきれながらツッコミをする司馬宇。
しかし一番の問題は、それをそのまま伝えたら、本当に飛んできてしまいそうな暁嵐だ。
皇帝に忠実な臣下は、今日も気苦労が絶えない。
だが、深刻な顔で黙り込む翠玉に、よほど大事な用なのだと察する。
司馬宇は自身の悩みは一旦置いて、翠玉の力になることを考えた。
「……伝言なら俺が聞いておこうと思ったが、そんな簡単なことではなさそうだな?」
「……まあね……」
ため息混じりに答える翠玉は、憂いを帯びていて色香さえ漂う。
これはわざとではない。司馬宇にお色気が通じないこともわかっているのだから。
「……仕方ない、なるべく早く終わるように頼んできてやる」
どうするべきか考えていた翠玉は、司馬宇の言葉にパッと顔を上げた。
どうやら友人には、お色気も駆け引きも必要ないようだ。
「司馬宇……あんたっていい奴ね」
「余計なことを言わんでいい、黙って中で待っておけ」
司馬宇はさっと踵を返すと、扉を開けて、スタスタと中に入っていった。
翠玉は小さく笑うと、司馬宇の後に続き、案内された一階の部屋に向かった。
「どうもありがとう」
ふわりと天女の微笑を浮かべると、翠玉は門を通過して後宮から旺玖院に足を踏み入れる。
すると門が封鎖され、旺玖院側に立った門番二人が翠玉に頭を下げた。
翠玉はすぐに司馬宇を見つける。
赤い城の前で、番人のように立っている司馬宇。
彼も翠玉を見ており、遠巻きながら二人の視線が交わっていた。
翠玉は玉砂利に囲まれた、石畳みの道を歩き、司馬宇の元に行った。
「どうした、翠風から来るとは珍しいな」
口の利き方を気をつけた方がいいと思いながらも、やはり翠玉に対してはタメ口になってしまう司馬宇。
暁嵐や翠玉から正されることもないので、これはこれで問題なさそうだ。
「陛下に話したいことがあるのよ」
「そうか、だが陛下は今会議中だ、始まったばかりだからな、まだ時間がかかるぞ」
ゲッとあからさまに嫌そうな顔をする翠玉。
なんで肝心な時に会えないんだと言いたげな顔だ。
暗殺者という職業柄、感情を殺すことが多かった翠玉だが、実は表情豊かなのかもしれない。
もちろん時と場合によるが、司馬宇の前では翠玉もあまり我慢しなくなってきた。
「そこをなんとか、たっぷり奉仕して差し上げるから、今すぐ出てきてって言ってよ」
「お前は陛下をなんだと思っとるんだ……」
若干偉そうに食い下がる翠玉に、あきれながらツッコミをする司馬宇。
しかし一番の問題は、それをそのまま伝えたら、本当に飛んできてしまいそうな暁嵐だ。
皇帝に忠実な臣下は、今日も気苦労が絶えない。
だが、深刻な顔で黙り込む翠玉に、よほど大事な用なのだと察する。
司馬宇は自身の悩みは一旦置いて、翠玉の力になることを考えた。
「……伝言なら俺が聞いておこうと思ったが、そんな簡単なことではなさそうだな?」
「……まあね……」
ため息混じりに答える翠玉は、憂いを帯びていて色香さえ漂う。
これはわざとではない。司馬宇にお色気が通じないこともわかっているのだから。
「……仕方ない、なるべく早く終わるように頼んできてやる」
どうするべきか考えていた翠玉は、司馬宇の言葉にパッと顔を上げた。
どうやら友人には、お色気も駆け引きも必要ないようだ。
「司馬宇……あんたっていい奴ね」
「余計なことを言わんでいい、黙って中で待っておけ」
司馬宇はさっと踵を返すと、扉を開けて、スタスタと中に入っていった。
翠玉は小さく笑うと、司馬宇の後に続き、案内された一階の部屋に向かった。
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