上 下
74 / 113
七、真実

しおりを挟む
「なぜわざわざそんなことを? 女に冷えは大敵よ、温かいうちに召し上がった方が」
「もうすぐ陛下が来られるのです」

 翠玉の言葉に、美雨が動きを止めた。
 その穏やかな瞳に、余裕に満ちた翠玉が映る。

「日が高いうちにも会いたいとおっしゃられて、今朝お約束したのです。そろそろだと思うので、せっかく希少なお茶ですし、陛下と一緒にいただきますわ」

 美雨は翠玉から目を逸らし、明らかな動揺を見せる。
 今、暁嵐が来て、翠玉がこのお茶を飲み干せば、暁嵐の前で翠玉が倒れることになる。
 そんなことになれば、原因がこのお茶であることは明らかだろう。
 これほど寵愛している翠玉が目の前で亡くなりでもしたら、暁嵐は原因と犯人を追及するに違いない。
 暁嵐が信頼している漢方医なら、美雨の手が及ばず、揉み消すことも不可能だ。
 すべては内密に、暁嵐が知らぬままに終わらせるつもりだったのに。
 美雨は不測の事態に、なんとか対処しようと頭を働かせた。

「それならば、翠風のお茶も淹れ直した方がよいわね」

 美雨は皇后であるにも関わらず、自ら湯呑みを片付けようと、翠玉のそれに手を伸ばした。
 するとすかさず、翠玉が美雨の手首を掴む。
 ビクリと反応した美雨が、ゆっくりと視線を上げると、間近で翠玉と目が合った。
 冷徹で挑戦的な瞳は、獲物を手繰り寄せる蜘蛛のごとく。
 
「いいえ、私はこのままでかまいせん、皇后様が私のためにご用意くださったこのお茶を……陛下の目の前で飲み干しますわ」

 ――一体、なんなの、この皇妃は……!?
 美雨は勢いよく翠玉の手を振り払うと、急いで平静を装った。

「いけないわ、やはり白茶は温かいのが一番だもの、青静、このお茶を片付けて」
「はっ!」

 美雨に命令された青静は、お盆に急須と湯呑みをのせると、早急に屋敷から出ていく。
 翠玉はそんな様子を横目で見送った。

「あらあら、もったいない……」

 翠玉がそう呟くと、美雨が椅子から立ち上がった。

「皇后様?」
「白茶は今の分しか用意してこなかったの、お茶会はまたにしましょう、陛下も翠風と二人きりで過ごしたいでしょうしね」

 あくまで翠玉より優位に立っていたいのか、美雨は不自然な笑顔を振り撒いて、扉に向かった。
 翠玉も立ち上がると、扉に向けて一礼をする。それを見た枕里は、急いで扉を開けに行った。

「なにもおかまいできず申し訳ありません、お気をつけてお帰りくださいませ、皇后様……」

 美雨は頭を下げた翠玉を一瞥すると、枕里に開かれた扉から出ていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない

めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」 村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。 戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。 穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。 夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

皇帝癒し人~殺される覚悟で来たのに溺愛されています~

碧野葉菜
キャラ文芸
人を癒す力で国を存続させてきた小さな民族、ユニ。成長しても力が発動しないピケは、ある日、冷徹と名高い壮国の皇帝、蒼豪龍(ツアンハウロン)の元に派遣されることになる。 本当のことがバレたら、絶対に殺される――。 そう思い、力がないことを隠して生活を始めるピケだが、なぜか豪龍に気に入られしまい――? 噂と違う優しさを見せる豪龍に、次第に惹かれていくピケは、やがて病か傷かもわからない、不可解な痣の謎に迫っていく。 ちょっぴり謎や策謀を織り込んだ、中華風恋愛ファンタジー。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

後宮物語〜身代わり宮女は皇帝に溺愛されます⁉︎〜

菰野るり
キャラ文芸
寵愛なんていりません!身代わり宮女は3食昼寝付きで勉強がしたい。 私は北峰で商家を営む白(パイ)家の長女雲泪(ユンルイ) 白(パイ)家第一夫人だった母は私が小さい頃に亡くなり、家では第二夫人の娘である璃華(リーファ)だけが可愛がられている。 妹の後宮入りの用意する為に、両親は金持ちの薬屋へ第五夫人の縁談を準備した。爺さんに嫁ぐ為に生まれてきたんじゃない!逃げ出そうとする私が出会ったのは、後宮入りする予定の御令嬢が逃亡してしまい責任をとって首を吊る直前の宦官だった。 利害が一致したので、わたくし銀蓮(インリェン)として後宮入りをいたします。 雲泪(ユンレイ)の物語は完結しました。続きのお話は、堯舜(ヤオシュン)の物語として別に連載を始めます。近日中に始めますので、是非、お気に入りに登録いただき読みにきてください。お願いします。

処理中です...