後宮の暗殺者～殺すつもりで来たのに溺愛されています～

七、真実

八

「……ええ、そんな言葉は耳にするのもおぞましいわ」

　不意に、美雨の聖女のような微笑が復活する。　
　そろそろだと思ったのだろう。

「皇后様、白茶を淹れてまいりました」

　美雨が思った通り、例のお茶が到着した。
　枕里が扉を開けに行くと、外から青静が入ってきた。
　両手にお盆を持ち、その上には西洋風の急須と、湯呑みが二つのっていた。
　青静は翠玉と美雨の元に歩み寄ると、丸い机に湯呑みを置いた。
　取手のついた、白い陶器の湯呑みだ。
　青静はそれに、順番にお茶を注ぐ。
　透明感のある、白っぽい液体が湯呑みを満たす。
　一般人には無縁の白茶。こんな希茶を、ドス黒い人間が毒殺に利用するとは、なんとも皮肉な話である。

「さあどうぞ、召し上がって翠風」

　お茶を注がれても、美雨はまったく手をつける気配がない。
　翠玉が先にどうぞと言ったところで、上手く言い訳をつけてかわされるだけだろう。
　当然、飲めるはずがないのだ。毒が入っているのだから。
　美雨は翠玉がお茶を飲み、生き絶えたのを確認して去るつもりだ。
　女官である枕里に見られたところで、痛くも痒くもないし、証拠はまた揉み消せばいい。
　窮地に追い込まれた翠玉を前に、枕里は頭の中で念仏を唱えていた。
　――父ちゃん、母ちゃん、弟たち……今までありがとうなぁ、私は、慕った皇妃様のために、天に召されんね……！！
　胸の内で愛する家族に別れを告げ、枕里は決死の覚悟で口を開く。

「あ、あ、あのっ、私が、先に――」

　しかし、その申し出は遮られた。
　翠玉が前を向いたまま、枕里に手を差し出したのだ。
　制止を意味する動きに、枕里は戸惑いながら翠玉を見た。
　枕里の瞳に映る翠玉の横顔は、妙に落ち着いて美しかった。

「皇后様、こちらのお茶は冷ましても美味しゅうございますか？」

　翠玉からの思いもよらぬ質問に、美雨はやや面食らいつつ答える。

「そうね、暑い夏には稀に冷やして飲むこともあるから、悪くはないけれど……」
「そうでございますか、では、私は冷ました状態でいただこうと思います」

　美雨はますますわからないといったふうに、首を捻って問いかける。