後宮の暗殺者～殺すつもりで来たのに溺愛されています～

七、真実

四

　そこに立っていたのは、大柄でゴツゴツした顔つきの女官。
　枕里の嫌な予感は的中してしまったのだ。

「突然の訪問、申し訳ありません、ぜひ、翠風様にお会いしたいと……皇后様が」

　枕里は耐えきれず、気まずそうに目を泳がせてしまう。
　なにか言わなくてはと、急いで言葉を探す。

「あ……は、はい、少しお待ちくださ――」
「まあ、皇后様が私に？」

　枕里が驚いて振り向くと、すぐ後ろに翠玉が来ていた。
　枕里の戸惑いをよそに、翠玉は実に冷静に、美しい笑みを讃えている。
　枕里より一足先にこの展開を予測していた翠玉は、すでに対策を考えていた。
　なんと肝の座ったお方だろうと、枕里は思う。　
　凛玲より年上で、女官勤めの長い枕里は、今までいろんな皇妃に仕えてきた。
　そのどんな皇妃とも違う、例を見ない翠玉の風格に、枕里は妙に安心感を覚えた。
　きっとこのお方なら大丈夫……枕里はそう信じながら、さっと後ろに身を引いた。
　すると翠玉が玄関に立ち、青静と対面する。背の高い青静を、翠玉が見上げる形で。
　翠玉は美雨が、なぜこの女官を選んだのかわかった。
　嫁の貰い手もないような、ブスの大女。
　彼女なら旺玖院で連れていても、雲嵐が手を出すことはないだろう。
　引き立て役にもちょうどいいと思ったのかもしれない。

「嬉しいですわ、ぜひとも中にお入りくださいませ」

　翠玉がそう言うと、今度は青静が後ろに身を引いた。
　すると青静の傍らに待機していた美雨が、歩を進めて翠玉の前で立ち止まった。

「ご機嫌よう、翠風」
「皇后様、ご機嫌麗しゅうございます」
「先ほどゆっくり話せなかったから、ここまで来てしまったわ」
「わざわざご足労いただきありがとうございます、さあ、どうぞ」

　翠玉は扉の端に身を寄せると、腕を重ねて礼の姿勢を取る。
　すると美雨は背筋を伸ばした状態で中に入った。
　しかし、その後に続くと思われていた青静は、頭を下げると踵を返し、屋敷から離れていった。
　翠玉は少し奇妙に思いながらも、青静が向かった場所を予想した。
　翠玉が扉を閉めると、屋敷の中には翠玉と美雨、枕里だけになる。
　外の世界と切り離された、三人だけの密室だ。