67 / 113
七、真実
二
しおりを挟む
「そして、極めつけには……」
枕里は浅く息を吸った。
そして、勇気とともに声を絞り出す。
「皇后様は、皇妃様を殺しています」
枕里は自分で言っておきながら、泣き出しそうに苦しげな表情をした。
以前からわかっていたが、言葉にすることで、改めてその恐ろしさを痛感したのだ。
翠玉はやや眉を動かしたが、取り乱すことはなかった。
数えきれないほど人を殺めてきた翠玉にとって、知りもしない人間の死は、動揺に値しない。
肝心なのは、目的を果たすことなのだから。
「なぜ、そう言いきれるの?」
他の皇妃なら恐怖に慄くであろう事実にも、さして驚きもせず淡々と対応する翠玉。
そんな冷静さに感化された枕里は、頭がすっと冴えるような心地になった。
「私が以前お仕えしていた、皇妃様も、そのお一人だったのです」
枕里は翠玉の目をしかと見つめ、自分が言うべきことを頭でまとめた。
「とても可愛らしい、野花のような方でした。ですがある日突然……亡くなられました。毒だと思います。私はその時、席を外していたのです。皇后様付きの女官である、青静に頼まれたことがあって……。そして戻ってきた時には、皇妃様はもう……倒れて、息をされていなかったのです。そのそばには白茶の入った湯呑みが転がっておりました。白茶は珍しいものですから、お裾分けですとか、上手く誘導して青静が飲ませたのだと思います……皇后様はお茶がお好きなのです、美容にとても気を使っていらっしゃるので……」
お茶という言葉に、翠玉はあの光景を思い出した。
翠玉が後宮入りした初日、美雨の城を訪れた時も、芳しい香りが漂っていたことを。
「そういえば私が挨拶に行った時も、お茶を楽しんでいたわ……それも雲嵐様を想うがゆえなのかしら」
「恐らくは。皇后様は暁嵐様と同い年ですから、雲嵐様よりだいぶ年上になりますので……」
若い男に釣り合うように、常に美容に気を配る。
どうやら美雨は、雲嵐を繋ぎ止めようと必死なようだ。
雲嵐は他の女――翠玉にも手を出そうとしているので、美雨に夢中というほどではなさそうだが。本命は美雨で、他は遊びの可能性もある。ただ……本当に愛されている自信があるなら、躍起になって他の女を殺す必要はないのでは……と、翠玉は考えた。
「その時、誰が犯人か調査はされなかったの? 珍しいお茶なら、そうたくさん持っている人はいないでしょうに」
「表向きは突発性の病死ということになっておりますので……」
「心筋梗塞や心不全とか、そういう類?」
「さようでございます、皇后様ほどの権力者なら、逆らえない臣下もたくさんいるでしょうし、見解を改竄するのも容易いのでしょう」
「なるほどね……」
翠玉は顎に手を添え呟いた。
自然死なら調査は行わないので、何事もなかったのと同じことだ。
枕里は浅く息を吸った。
そして、勇気とともに声を絞り出す。
「皇后様は、皇妃様を殺しています」
枕里は自分で言っておきながら、泣き出しそうに苦しげな表情をした。
以前からわかっていたが、言葉にすることで、改めてその恐ろしさを痛感したのだ。
翠玉はやや眉を動かしたが、取り乱すことはなかった。
数えきれないほど人を殺めてきた翠玉にとって、知りもしない人間の死は、動揺に値しない。
肝心なのは、目的を果たすことなのだから。
「なぜ、そう言いきれるの?」
他の皇妃なら恐怖に慄くであろう事実にも、さして驚きもせず淡々と対応する翠玉。
そんな冷静さに感化された枕里は、頭がすっと冴えるような心地になった。
「私が以前お仕えしていた、皇妃様も、そのお一人だったのです」
枕里は翠玉の目をしかと見つめ、自分が言うべきことを頭でまとめた。
「とても可愛らしい、野花のような方でした。ですがある日突然……亡くなられました。毒だと思います。私はその時、席を外していたのです。皇后様付きの女官である、青静に頼まれたことがあって……。そして戻ってきた時には、皇妃様はもう……倒れて、息をされていなかったのです。そのそばには白茶の入った湯呑みが転がっておりました。白茶は珍しいものですから、お裾分けですとか、上手く誘導して青静が飲ませたのだと思います……皇后様はお茶がお好きなのです、美容にとても気を使っていらっしゃるので……」
お茶という言葉に、翠玉はあの光景を思い出した。
翠玉が後宮入りした初日、美雨の城を訪れた時も、芳しい香りが漂っていたことを。
「そういえば私が挨拶に行った時も、お茶を楽しんでいたわ……それも雲嵐様を想うがゆえなのかしら」
「恐らくは。皇后様は暁嵐様と同い年ですから、雲嵐様よりだいぶ年上になりますので……」
若い男に釣り合うように、常に美容に気を配る。
どうやら美雨は、雲嵐を繋ぎ止めようと必死なようだ。
雲嵐は他の女――翠玉にも手を出そうとしているので、美雨に夢中というほどではなさそうだが。本命は美雨で、他は遊びの可能性もある。ただ……本当に愛されている自信があるなら、躍起になって他の女を殺す必要はないのでは……と、翠玉は考えた。
「その時、誰が犯人か調査はされなかったの? 珍しいお茶なら、そうたくさん持っている人はいないでしょうに」
「表向きは突発性の病死ということになっておりますので……」
「心筋梗塞や心不全とか、そういう類?」
「さようでございます、皇后様ほどの権力者なら、逆らえない臣下もたくさんいるでしょうし、見解を改竄するのも容易いのでしょう」
「なるほどね……」
翠玉は顎に手を添え呟いた。
自然死なら調査は行わないので、何事もなかったのと同じことだ。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
皇帝癒し人~殺される覚悟で来たのに溺愛されています~
碧野葉菜
キャラ文芸
人を癒す力で国を存続させてきた小さな民族、ユニ。成長しても力が発動しないピケは、ある日、冷徹と名高い壮国の皇帝、蒼豪龍(ツアンハウロン)の元に派遣されることになる。
本当のことがバレたら、絶対に殺される――。
そう思い、力がないことを隠して生活を始めるピケだが、なぜか豪龍に気に入られしまい――?
噂と違う優しさを見せる豪龍に、次第に惹かれていくピケは、やがて病か傷かもわからない、不可解な痣の謎に迫っていく。
ちょっぴり謎や策謀を織り込んだ、中華風恋愛ファンタジー。
『イケメンイスラエル大使館員と古代ユダヤの「アーク探し」の5日間の某国特殊部隊相手の大激戦!なっちゃん恋愛小説シリーズ第1弾!』
あらお☆ひろ
キャラ文芸
「なつ&陽菜コンビ」にニコニコ商店街・ニコニコプロレスのメンバーが再集結の第1弾!
もちろん、「なっちゃん」の恋愛小説シリーズ第1弾でもあります!
ニコニコ商店街・ニコニコポロレスのメンバーが再集結。
稀世・三郎夫婦に3歳になったひまわりに直とまりあ。
もちろん夏子&陽菜のコンビも健在。
今作の主人公は「夏子」?
淡路島イザナギ神社で知り合ったイケメン大使館員の「MK」も加わり10人の旅が始まる。
ホテルの庭で偶然拾った二つの「古代ユダヤ支族の紋章の入った指輪」をきっかけに、古来ユダヤの巫女と化した夏子は「部屋荒らし」、「ひったくり」そして「追跡」と謎の外人に追われる!
古代ユダヤの支族が日本に持ち込んだとされる「ソロモンの秘宝」と「アーク(聖櫃)」に入れられた「三種の神器」の隠し場所を夏子のお告げと客観的歴史事実を基に淡路、徳島、京都、長野、能登、伊勢とアークの追跡が始まる。
もちろん最後はお決まりの「ドンパチ」の格闘戦!
アークと夏子とMKの恋の行方をお時間のある人はゆるーく一緒に見守ってあげてください!
では、よろひこー (⋈◍>◡<◍)。✧♡!
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる