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七、真実
一
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やがて屋敷に到着すると、枕里が扉を開く。そして先に翠玉が入ったのを確認すると、枕里も後に続いた。
「枕里……さっきの話の続きなんだけど」
パタンと扉が閉まると、翠玉が振り向いて枕里を見た。
翠玉の後ろに立った枕里は、少し俯きながら視線をあちらこちらに移動させている。
しばしの沈黙が二人を包み、やがて枕里が重い口を開いた。
「……こんなことは、本来、口にするべきではないのです、女官風情が、大それたことになると思います……ですが、翠風様は、私たちにも優しくしてくださる、特別な皇妃様なので……ここだけの話ということで、どうかお聞きください」
枕里は胸の前で重ねた手をギュッと握りしめ、強く目を閉じた。
「皇后様は……陛下の弟君にあたる、雲嵐様と……その……ただならぬ噂があるのです」
翠玉は目を見開いた。
それと同時に、蘇るいくつもの記憶。
生誕祭での美雨の熱い視線と、華殿の帳簿に記された二人の名前。
薄く、頼りなかった糸が、徐々に色濃くなり、繋がってゆくような感覚を得る。
「後宮にいた頃の皇后様の御殿に、雲嵐様が何度も来ていらっしゃるのを見かけた者がいるのです。皇族の生誕祭や、功労会など、皆が集まる祭典などの時も、人目を忍ぶように二人きりでいらっしゃるところが目撃されています。華殿もお二人が貸し切っているような状態だとか……」
一度口を切った枕里は、自分が知っていることをつらつらと述べる。
この際すべてを打ち明けてしまおうと考えたのだ。
翠玉は枕里に向き合い、彼女の話をしかと受け止めていた。
その上で、気になる疑問は潰していく。
「どうして華殿の詳細を、あなたたち女官が知っているの?」
「上段の皇妃様に仕えている者が言っていたのです、上段の皇妃様が華殿を先押さえようと宦官に頼んでも、いつも皇后様や雲嵐様が取っておられる……と言って、なかなか行ける機会がない、と」
枕里はそう言った後、さらに深刻な顔をした。
枕里の握りしめた両手が震えている。
露わになっている額に、じわりと嫌な汗が滲む。
翠玉はそんな枕里を黙って見つめ、続きを心して待った。
枕里の様子から、今からただならぬ事情が語られると感じていたからだ。
「枕里……さっきの話の続きなんだけど」
パタンと扉が閉まると、翠玉が振り向いて枕里を見た。
翠玉の後ろに立った枕里は、少し俯きながら視線をあちらこちらに移動させている。
しばしの沈黙が二人を包み、やがて枕里が重い口を開いた。
「……こんなことは、本来、口にするべきではないのです、女官風情が、大それたことになると思います……ですが、翠風様は、私たちにも優しくしてくださる、特別な皇妃様なので……ここだけの話ということで、どうかお聞きください」
枕里は胸の前で重ねた手をギュッと握りしめ、強く目を閉じた。
「皇后様は……陛下の弟君にあたる、雲嵐様と……その……ただならぬ噂があるのです」
翠玉は目を見開いた。
それと同時に、蘇るいくつもの記憶。
生誕祭での美雨の熱い視線と、華殿の帳簿に記された二人の名前。
薄く、頼りなかった糸が、徐々に色濃くなり、繋がってゆくような感覚を得る。
「後宮にいた頃の皇后様の御殿に、雲嵐様が何度も来ていらっしゃるのを見かけた者がいるのです。皇族の生誕祭や、功労会など、皆が集まる祭典などの時も、人目を忍ぶように二人きりでいらっしゃるところが目撃されています。華殿もお二人が貸し切っているような状態だとか……」
一度口を切った枕里は、自分が知っていることをつらつらと述べる。
この際すべてを打ち明けてしまおうと考えたのだ。
翠玉は枕里に向き合い、彼女の話をしかと受け止めていた。
その上で、気になる疑問は潰していく。
「どうして華殿の詳細を、あなたたち女官が知っているの?」
「上段の皇妃様に仕えている者が言っていたのです、上段の皇妃様が華殿を先押さえようと宦官に頼んでも、いつも皇后様や雲嵐様が取っておられる……と言って、なかなか行ける機会がない、と」
枕里はそう言った後、さらに深刻な顔をした。
枕里の握りしめた両手が震えている。
露わになっている額に、じわりと嫌な汗が滲む。
翠玉はそんな枕里を黙って見つめ、続きを心して待った。
枕里の様子から、今からただならぬ事情が語られると感じていたからだ。
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