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三、翠玉の友

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 それからしばらくは、皆で酒や食事を楽しむ時間となった。
 皆、暁嵐への挨拶が済み、あらかた食事が片付いたところで、催しが開始される。
 移動していた者も、再び自分の場所に戻り待機姿勢に入る。
 食事の後の催しを、皆いつも楽しみにしていた。
 火を使った大道芸や、鳥を使った手品など、物珍しい演技の数々に、皆は声を上げて喜んだ。
 暁嵐はいつもがんばってくれる従者のために、この日ばかりはと、贅を尽くすようにしていた。
 そう、今までは自分のためではなく、周りのためだったのだ。
 そんな暁嵐が、今日は初めて、自分に贈り物を用意した。
 愛する女と、自分のために――。
 芸人が一同に頭を下げて去っていくと、次はなにかと皆が楽しげに予想をする。

「みんなお上手ですね、そろそろしまいでしょうか」
「そうじゃな、おそらく次で――」

 美雨への返事の途中で、暁嵐は言葉を切った。
 それは暁嵐に限ったことではない。
 ここにいた全員が、一度に動きを止めた。
 それは一瞬にして、目の前に人間が現れたからだ。
 芸をする者たちは、皆御殿の端の方……舞台袖のような場所からゾロゾロとやって来るもの。
 にも関わらず、彼女はいつの間にかそこにいた。暁嵐の御前に、片膝をついて視線を落としていた。
 眩しいほどの金でできた衣と装飾品。
 しかし、それに負けない彼女の美貌が、御殿中の視線を攫った。
 暁嵐はゾクリとした。
 何度も戦に馳せ参じた。命のやり取りには慣れている。
 そんな暁嵐が、初めての感覚に囚われた。
 喜びなどという生ぬるいものではない、未知なる領域への期待と不安、それは恐怖に近い感嘆だった。
 翠玉は立ち上がる。弓のように反り返った剣を片手に。
 そして、空高く舞い上がった。
 柔軟な身体を活かし、常人ではあり得ない体勢で剣を操る。
 観客は翠玉に合わせて目を動かし、剣を投げた時は息を止め、成功した時は胸を撫で下ろす。
 しかしそのすべてが野蛮ではなく、優美な天女の戯れのようなのだ。
 先ほどまで騒がしさが嘘のように、皆口を結んで翠玉の演舞に夢中になっていた。
 そんな中、翠玉は些細な違和感に気づいていた。
 全身全霊で舞いながらも、視野が広い。これは職業柄だろう。
 だからこそ気づいた。暁嵐の隣に座る美雨の視線が、自分ではなく別のところにあることに。
 ――ずいぶん、熱い視線だこと。
 舞いで身体の向きを変えながら、美雨の視線の先を確かめる。
 すると確実ではないが、あらかた推測はついた。
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