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三、翠玉の友

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「そんな単純なことで……」
「人間は意外と単純じゃぞ、特に世継ぎ問題に直結せぬ宦官や女官は、味方につけやすいであろう。皇妃同士のいざこざの回避にはならぬかもしれんが、やらぬよりはやった方が、快適に暮らしやすくなると思うぞ」

 暁嵐の言うことも一理ある。なにを行うにも味方は多い方がいい。
 特に翠玉はこれから依頼人探しをするのだ、なるべく面倒ごとに時間を取られたくない。
 ならば、やらないよりは、やる方がいい、か――。
 だが、翠玉の中には、他の理由も思い浮かんでいた。

「……そんなこと言って、単に私に誕生日を祝ってほしいだけじゃないの?」
「まあ、それもある」

 あっさり認める暁嵐を、じとっと細めた目で見る翠玉。
 しかし、暁嵐は真剣だった。
 翠玉の下ろした長い髪を撫で、指に絡めるように愛でる。

「それから翠玉を見せびらかしたい気持ちもあるの、その反面、誰の目も届かぬ場所に閉じ込めておきたい気持ちもある……なんとも複雑でままならぬ、こんな感情は初めてじゃ」

 暁嵐は骨張った指で手繰り寄せた、艶やかな髪に唇を落とす。
 部屋に焚いた香よりも、翠玉自身の匂いが、暁嵐にはたまらなかった。
 暗殺者だというのに、まるで澄みきった水のような香り。
 生まれ育った淀みを消して、自分色に染めてしまいたい。そんな欲望が、暁嵐の中に目覚めつつあった。
 翠玉は髪に口づける暁嵐を見ていた。
 豊かなまつ毛の下に覗く紅色の瞳が、一心に翠玉を映す。
 ついに耐えられなくなった翠玉が、暁嵐の胸にコツンと頭からもたれかかった。

「……豪華な衣を用意してちょうだい、後、練習できる場所と、相手も」

 承諾を意味する言葉に、暁嵐は翠玉の手を取ると、その甲に口づけた。

「ああ、急いで用意させる、色は何色がよい?」
「……そうね、金がいいわ……目が眩むような、黄金色こがねいろを――」

 闇に溶け込むように生きてきた翠玉にとって、正反対のような存在である色。
 金を所望することは、翠玉の闇の世界からの離脱を表していた。
 どうせやるならば、思いきり目立った方がいい。とびきり美しい自身が餌となり、釣れる獲物もいるかもしれない。それが、依頼人に繋がる可能性を見た翠玉は、全力で舞うことを心に決めた。
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