後宮の暗殺者~殺すつもりで来たのに溺愛されています~

碧野葉菜

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三、翠玉の友

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「……ちょっと、聞きたいんだけど」
「どうした? なんでも聞いてよいぞ」
「あなた、私の身辺調査をする気はないの?」

 今日一日過ごしてみても、誰かに見張られている気配が一切なかった。
 そのため翠玉は、なんの動きもない暁嵐に疑問を抱いたのだ。

「なんじゃ、まだそんなことを申しておるのか」

 翠玉の質問に、暁嵐はあきれたように言った。

「あなたを殺そうとした私と……依頼をした人間が、この宮中のどこかにいるのよ」
「そうじゃな、問題はその依頼人の方じゃ、お前は別にやりたくてやったわけではなかろう、勤めなら仕方のないことじゃからの」
「よくもそんなに割り切れるわね」
「わしも戦で人を殺めておるゆえ、その点については特になにも思わぬぞ」

 暁嵐の言うことは最もなのだが、頭で理解するのと心で納得するのは別物だろう。
 それをすんなり受け入れるなんて、暁嵐はあまりに潔く、器が広すぎた。

「そもそも密偵を送ったところで、翠玉には無意味じゃろ」
「……確かにそうだけどね、臣下を無駄死にさせたくないなら、大人しくしている方が賢明だわ」
「じゃから、一番よいのはわしが翠玉と一緒におることじゃ。こうやって見張っておれば、悪さもできんじゃろ」

 そう言って暁嵐は、翠玉を正面から抱きしめた。
 昨夜は余裕がなかったので、翠玉は初めて、暁嵐の抱擁を味わっていた。
 高めの体温に、穏やかな陽射しのような匂い。
 翠玉が今まで無縁だった、一生関わるはずではなかった、暖かい、日の当たる場所。
 翠玉は抱きしめ返そうと上げた両手を、思い直して引っ込めた。

「あまり私にベッタリしないでちょうだい、他にも皇妃が山ほど待っているのでしょう、今まで平等に回っていたならなおさら、突然偏ったら不満が出るわよ」
「そうはいってもなぁ、翠玉に会いたくてどうしようもないのじゃ。何日も会えないとなると、勤めも手につかんようになるかもしれぬ。皇帝が腑抜けになっては国が傾く、ゆえに翠玉との逢瀬は民のためにもなるということじゃ」

 ものは言いようだ。なかなか弁の立つ暁嵐に、翠玉はあきれたようにため息をついた。
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