上 下
20 / 113
二、後宮入り

しおりを挟む
「そうか、ならばわしが指南してやろう」
「けっこうです、一人で乗れますから」
「まあ、そう言うでない」

 暁嵐は翠玉の手を引くと、先に紅魁に乗せ、自身はその後に続いた。
 結果、暁嵐が前に乗った翠玉を、包むような形になった。

「よう我慢しておるな、あれほど身軽なのじゃ、身体が勝手に動きそうなものを」
「できる女は切り替えも上手いものよ」

 他の誰にも聞こえない距離になると、翠玉は小さく、得意げに言ってみせた。
 背後をチラリと見る、翠玉の流し目が艶かしく、暁嵐は高まった。

「ははっ、違いない」
「ちょっと陛下、勝手に行かんでください! 私も一緒に――」
「行け、紅魁!」
「ヒヒーン!」

 司馬宇が止めるのを聞かず、暁嵐は翠玉とともに紅魁で出発した。

 開かれた門を通過し、後宮の石畳みを駆け抜ける。
 いくら宮中が広いからといって、馬で走っている者は誰もいない。
 当然、こんな特別なことが許されるのは、暁嵐くらいだろう。
 女官や宦官たちの視線を攫いながら、暁嵐は後宮の奥の方へと向かう。
 長屋のような女官たちの住処と、下級皇妃の小さな家屋を越え、やがて静かな敷地に出る。
 これまでの場所とは雰囲気が違う。
 人通りが少ない道沿いに、独立した屋敷がいくつも並んでいた。

「着いたぞ、ここじゃ」

 暁嵐は馬から降りると、翠玉の手を取り、地上に導いた。
 翠玉が降り立ったのは、深緑の屋根をした、平らな建物の前。
 女官たちの雑魚部屋とは、比べものにならない立派な屋敷だ。

「なんか……大きくない、ですか……?」
「そうじゃな、五段の皇妃が使っておった屋敷ゆえ、それなりの広さはある」

 聞き慣れない言葉に、翠玉は隣に立つ暁嵐を見上げた。

「五段とは、なんなのです?」
「皇妃に与えられておる位のことじゃ。上が一段から五段、その下が一級から十級まである。上になればなるほど、地位が高く、数は少ない」
「なら……五段というのは、級を飛ばしているのでは?」
「飲み込みが早いの、その通りじゃ」

 あっさり認める暁嵐に、ええ……と言いたくなる翠玉。
 一級から十級までの段階をすっ飛ばして、いきなり五段に割り込むなど、飛び級もいいところである。
 後宮入りしても、一級のまま終わる女もいるというのに、翠玉は間違いなく特別待遇だった。
 後宮事情に詳しくない翠玉でも、そこまで優遇されてよいものかと躊躇する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...