19 / 113
二、後宮入り
八
しおりを挟む
「翠風!」
翠玉の姿を認めた暁嵐は、馬の手綱を引き、足を止めた。
突然登場した暁嵐に、翠玉は怪訝な顔をし、司馬宇は仏頂面のままだった。
「そろそろ皇后のところに来ている頃じゃと思ってな」
「……はあ」
「この馬はわしの愛馬じゃ、名は紅魁、紅に首領という意味の魁じゃ、よい名じゃろ」
「さようでございますか……」
明らかに乗り気でない翠玉に、気にせず話しかける暁嵐。
彼はすっと馬を降りると、一直線に翠玉に近づく。そして当然のように、翠玉をギュッと抱きしめた。
「会いたかったぞ、わしの翠風」
素早く自然すぎる動きに、一瞬抵抗を忘れる翠玉。
反応できたところで、拒む選択肢はないが。
なんせここは宮中なのだ、周りには後宮ほどではないが、通りすがりの宦官もいる。
そんな公の場で、皇帝にタメ口も利けなければ、異議を唱えることもできない。
だから翠玉は、足を踏んでやりたい気持ちをグッと堪えた。
「嫌ですわ、陛下ったら、今朝までご一緒だったではありませんか」
「馴れ馴れしい口調もよいが、丁寧な言葉遣いもまたよいの、その装いも大層似合っておる、眩しくて眩暈がするほどじゃ」
嫌味を込めて言ったつもりの翠玉だったが、暁嵐はまったく気にしていない。
それどころか翠玉を舐めるように褒める始末。こうなると翠玉は、自分が苛立っているのがバカバカしくなってくる。
「陛下、いかがされたのですか、そろそろ頂将軍たちとの会議のお時間では」
通りすがりの宦官が注目する中、司馬宇は変わらぬ表情で暁嵐に尋ねる。
だが、暁嵐は焦る素振りもない。
「まだ余裕があるゆえ問題ない、翠風の屋敷が整ったので迎えに来たのじゃ」
「……屋敷?」
翠玉は『部屋』ではなく『屋敷』と言われたことが引っかかった。まるでずいぶん立派な住処のような表現ではないかと。実際、そうなのだが。
「そうじゃ、ほれ乗れ、馬は初めてか?」
「そうですね、馬に乗る必要性を感じたことがないので」
翠玉の答えに、暁嵐は「あー、確かにのお」と言って激しく納得した。
さすがに最高時速は馬の方が速いだろうが、馬は飛んだり跳ねたり、高い塀を越えたりできない。移動に便利な身軽さでいえば、翠玉単身の方が上なのだ。
翠玉の姿を認めた暁嵐は、馬の手綱を引き、足を止めた。
突然登場した暁嵐に、翠玉は怪訝な顔をし、司馬宇は仏頂面のままだった。
「そろそろ皇后のところに来ている頃じゃと思ってな」
「……はあ」
「この馬はわしの愛馬じゃ、名は紅魁、紅に首領という意味の魁じゃ、よい名じゃろ」
「さようでございますか……」
明らかに乗り気でない翠玉に、気にせず話しかける暁嵐。
彼はすっと馬を降りると、一直線に翠玉に近づく。そして当然のように、翠玉をギュッと抱きしめた。
「会いたかったぞ、わしの翠風」
素早く自然すぎる動きに、一瞬抵抗を忘れる翠玉。
反応できたところで、拒む選択肢はないが。
なんせここは宮中なのだ、周りには後宮ほどではないが、通りすがりの宦官もいる。
そんな公の場で、皇帝にタメ口も利けなければ、異議を唱えることもできない。
だから翠玉は、足を踏んでやりたい気持ちをグッと堪えた。
「嫌ですわ、陛下ったら、今朝までご一緒だったではありませんか」
「馴れ馴れしい口調もよいが、丁寧な言葉遣いもまたよいの、その装いも大層似合っておる、眩しくて眩暈がするほどじゃ」
嫌味を込めて言ったつもりの翠玉だったが、暁嵐はまったく気にしていない。
それどころか翠玉を舐めるように褒める始末。こうなると翠玉は、自分が苛立っているのがバカバカしくなってくる。
「陛下、いかがされたのですか、そろそろ頂将軍たちとの会議のお時間では」
通りすがりの宦官が注目する中、司馬宇は変わらぬ表情で暁嵐に尋ねる。
だが、暁嵐は焦る素振りもない。
「まだ余裕があるゆえ問題ない、翠風の屋敷が整ったので迎えに来たのじゃ」
「……屋敷?」
翠玉は『部屋』ではなく『屋敷』と言われたことが引っかかった。まるでずいぶん立派な住処のような表現ではないかと。実際、そうなのだが。
「そうじゃ、ほれ乗れ、馬は初めてか?」
「そうですね、馬に乗る必要性を感じたことがないので」
翠玉の答えに、暁嵐は「あー、確かにのお」と言って激しく納得した。
さすがに最高時速は馬の方が速いだろうが、馬は飛んだり跳ねたり、高い塀を越えたりできない。移動に便利な身軽さでいえば、翠玉単身の方が上なのだ。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
皇帝癒し人~殺される覚悟で来たのに溺愛されています~
碧野葉菜
キャラ文芸
人を癒す力で国を存続させてきた小さな民族、ユニ。成長しても力が発動しないピケは、ある日、冷徹と名高い壮国の皇帝、蒼豪龍(ツアンハウロン)の元に派遣されることになる。
本当のことがバレたら、絶対に殺される――。
そう思い、力がないことを隠して生活を始めるピケだが、なぜか豪龍に気に入られしまい――?
噂と違う優しさを見せる豪龍に、次第に惹かれていくピケは、やがて病か傷かもわからない、不可解な痣の謎に迫っていく。
ちょっぴり謎や策謀を織り込んだ、中華風恋愛ファンタジー。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる