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二、後宮入り

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「翠風!」

 翠玉の姿を認めた暁嵐は、馬の手綱を引き、足を止めた。
 突然登場した暁嵐に、翠玉は怪訝な顔をし、司馬宇は仏頂面のままだった。

「そろそろ皇后のところに来ている頃じゃと思ってな」
「……はあ」
「この馬はわしの愛馬じゃ、名は紅魁コウカイべにに首領という意味の魁じゃ、よい名じゃろ」
「さようでございますか……」
 
 明らかに乗り気でない翠玉に、気にせず話しかける暁嵐。
 彼はすっと馬を降りると、一直線に翠玉に近づく。そして当然のように、翠玉をギュッと抱きしめた。

「会いたかったぞ、わしの翠風」

 素早く自然すぎる動きに、一瞬抵抗を忘れる翠玉。
 反応できたところで、拒む選択肢はないが。
 なんせここは宮中なのだ、周りには後宮ほどではないが、通りすがりの宦官もいる。
 そんな公の場で、皇帝にタメ口も利けなければ、異議を唱えることもできない。 
 だから翠玉は、足を踏んでやりたい気持ちをグッと堪えた。

「嫌ですわ、陛下ったら、今朝までご一緒だったではありませんか」
「馴れ馴れしい口調もよいが、丁寧な言葉遣いもまたよいの、その装いも大層似合っておる、眩しくて眩暈がするほどじゃ」

 嫌味を込めて言ったつもりの翠玉だったが、暁嵐はまったく気にしていない。
 それどころか翠玉を舐めるように褒める始末。こうなると翠玉は、自分が苛立っているのがバカバカしくなってくる。

「陛下、いかがされたのですか、そろそろチョウ将軍たちとの会議のお時間では」

 通りすがりの宦官が注目する中、司馬宇は変わらぬ表情で暁嵐に尋ねる。
 だが、暁嵐は焦る素振りもない。

「まだ余裕があるゆえ問題ない、翠風の屋敷が整ったので迎えに来たのじゃ」
「……屋敷?」

 翠玉は『部屋』ではなく『屋敷』と言われたことが引っかかった。まるでずいぶん立派な住処のような表現ではないかと。実際、そうなのだが。

「そうじゃ、ほれ乗れ、馬は初めてか?」
「そうですね、馬に乗る必要性を感じたことがないので」

 翠玉の答えに、暁嵐は「あー、確かにのお」と言って激しく納得した。
 さすがに最高時速は馬の方が速いだろうが、馬は飛んだり跳ねたり、高い塀を越えたりできない。移動に便利な身軽さでいえば、翠玉単身の方が上なのだ。
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