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二、後宮入り

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「司馬宇殿が申された通りです」
「なるほど……町娘とはいえ、それほど器量がよければ陛下の目にとまるのも頷けるわ」
「もったいなきお言葉にございます」
「歳はいくつ?」

 翠玉は、こういう時のために、年齢設定が必要だったのだなと納得した。

「二十でございます」
「そう……若いわね」

 美雨がそう言った時、翠玉が不意にほのかな匂いを感じた。柔らかく、鼻孔をくすぐる香りだ。
 翠玉は五感が発達しているため、すぐに気づいた。

「なにか気になったかしら?」
「少しよい香りがすると思いまして」
「あら、鼻がいいのね、先ほど花茶である瑰花メイクイを楽しんだところなの。花が入ったお茶で、美容にもいいのよ、私もまだ飲みたいし、また淹れさせようと思っていたの、よかったらご一緒にいかがかしら?」

 些細な変化を感じ取る美雨に、翠玉は心して返事をする。

「いえ……私にはまだ、皇后様にお楽しみいただけるような、教養も知性もございません。せめて宮中で、僅かながらの学びを得てから、再度機会をいただければ幸いに思います」
「それはまた、ずいぶんと勉強熱心だこと……」

 美雨は穏やかな瞳をやや開いてみせた。目尻にうっすら浮かぶ皺が、隠しきれない年齢を表している。
 司馬宇は内心、上手くかわしたなと思った。あまり長居して、辻褄が合わないことを言えば面倒だ。今回の茶会は、断った翠玉の判断が正しい。
 とはいえ、心にもないことをよくぞここまですらすら述べられるものだと、弁の立つ翠玉に、あきれを通り越して、感心する司馬宇だった。
 美雨への挨拶を済ませた二人は、扉を開いて外へ出る。
 すると、そこに待機していた女官が、すっと頭を下げた。
 翠玉は来た時と同じように、またその女官を一瞥する。
 そして城から離れると、隣を歩く司馬宇に小声で言った。

「ねえ、あの女官、ずいぶん不細工じゃない?」
「ハッキリ言いすぎだろ……だがなぜか、皇后様のお気に入りなのだ、お付きの女官は、あの者――青静チンジンに限ると」
「ふぅん」
 
 そんなやり取りをしながら、元来た道を戻っていると、なにやら大きな気配が近づいてくる。
 二人が金色の城を通り過ぎた時、地面を蹴る低い音がすぐそばまで迫った。
 翠玉が振り向いた先には、太陽を背に、赤茶色の馬に乗る君主の姿があった。
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