後宮の暗殺者~殺すつもりで来たのに溺愛されています~

碧野葉菜

文字の大きさ
上 下
17 / 113
二、後宮入り

しおりを挟む
 低木の花が彩る、庭園を歩き、やがて目的地に辿り着く。
 赤い城の真後ろに位置にする、銅色の屋根をした三階建ての城。
 その入り口である一階には、女官が一人立っていた。
 翠玉と司馬宇の姿が見えると、女官がペコリと頭を下げる。
 ずいぶんと図体が大きく、お世辞にも美人とは言えない女だった。
 翠玉は女の顔をチラリと見てから、先を進む司馬宇の後ろに続く。
 鈍色に光る銅色の扉を開くと、広々とした部屋の奥に人影が見える。
 天井からぶら下がった、銅色の揺れる飾りもの。
 紺碧色の絨毯の向こうに段差があり、その上に豪華な長椅子が置いてある。
 そこに腰掛けた人物は、穏やかな目つきで二人を迎え入れた。
 司馬宇は入ってきた扉を閉めると、その傍らで待機する。
 翠玉は衣の裾を摘んで持ち上げると、ゆっくりと絨毯まで歩いた。
 そして跪くと、両腕を重ねるようにして頭を下げた。

「皇后様、お初にお目にかかります、翠風と申します」
「よく来たわね、翠風……私が皇后、名は美雨メイユイよ、どうぞ、顔を上げてちょうだい」
 
 思いの外優しい口調に、翠玉は言われた通り顔を上げる。
 すると少し離れた先の、穏やかな瞳と視線が合った。
 色素の薄い髪を編み込んで後ろに束ね、緩やかに波打った後れ毛を垂らしている。
 ハッキリした顔立ちの翠玉に対し、美雨は丸顔でふわりとした印象だ。
 蒼玉のような色合いの衣に、金の装飾品をつけている。皇后らしい、上品ながら豪華な装いだ。
 翠玉が香り立つ百合の花なら、美雨は池にそっと咲くはすの花。種類は違うが、どちらも美人であることに違いなかった。

「まあ……これはこれは、急遽後宮入りが決まったと聞いたけれど、生まれはどこ? 親はなにをしているの?」

 美雨はいの一番に、翠玉の生い立ちを尋ねた。
 どこの馬の骨かわからない娘が皇妃になるのだ、いろいろ聞いてみたくなるのもわかる。
 しかし、あまりにあからさまな質問に、翠玉は美雨の性質を見た気がした。
 身分や権力に、強いこだわりがあるのだろうと。
 とはいえ、翠玉はなにも反応できない。
 その辺りのことは、暁嵐からなんの指示もなかったからだ。

「翠風は北方の出身で、親は幼い頃に亡くなっております、城下町で働いていたところを、陛下が見初められました」

 答えられない翠玉の代わりに、絨毯のそばまで来た司馬宇が言った。
 ――なるほど、そういう設定なわけね。
 司馬宇が暁嵐と話をつけていることは明らかだったので、翠玉はその内容をすかさず頭に叩き込んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

処理中です...