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二、後宮入り
六
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低木の花が彩る、庭園を歩き、やがて目的地に辿り着く。
赤い城の真後ろに位置にする、銅色の屋根をした三階建ての城。
その入り口である一階には、女官が一人立っていた。
翠玉と司馬宇の姿が見えると、女官がペコリと頭を下げる。
ずいぶんと図体が大きく、お世辞にも美人とは言えない女だった。
翠玉は女の顔をチラリと見てから、先を進む司馬宇の後ろに続く。
鈍色に光る銅色の扉を開くと、広々とした部屋の奥に人影が見える。
天井からぶら下がった、銅色の揺れる飾りもの。
紺碧色の絨毯の向こうに段差があり、その上に豪華な長椅子が置いてある。
そこに腰掛けた人物は、穏やかな目つきで二人を迎え入れた。
司馬宇は入ってきた扉を閉めると、その傍らで待機する。
翠玉は衣の裾を摘んで持ち上げると、ゆっくりと絨毯まで歩いた。
そして跪くと、両腕を重ねるようにして頭を下げた。
「皇后様、お初にお目にかかります、翠風と申します」
「よく来たわね、翠風……私が皇后、名は美雨よ、どうぞ、顔を上げてちょうだい」
思いの外優しい口調に、翠玉は言われた通り顔を上げる。
すると少し離れた先の、穏やかな瞳と視線が合った。
色素の薄い髪を編み込んで後ろに束ね、緩やかに波打った後れ毛を垂らしている。
ハッキリした顔立ちの翠玉に対し、美雨は丸顔でふわりとした印象だ。
蒼玉のような色合いの衣に、金の装飾品をつけている。皇后らしい、上品ながら豪華な装いだ。
翠玉が香り立つ百合の花なら、美雨は池にそっと咲く蓮の花。種類は違うが、どちらも美人であることに違いなかった。
「まあ……これはこれは、急遽後宮入りが決まったと聞いたけれど、生まれはどこ? 親はなにをしているの?」
美雨はいの一番に、翠玉の生い立ちを尋ねた。
どこの馬の骨かわからない娘が皇妃になるのだ、いろいろ聞いてみたくなるのもわかる。
しかし、あまりにあからさまな質問に、翠玉は美雨の性質を見た気がした。
身分や権力に、強いこだわりがあるのだろうと。
とはいえ、翠玉はなにも反応できない。
その辺りのことは、暁嵐からなんの指示もなかったからだ。
「翠風は北方の出身で、親は幼い頃に亡くなっております、城下町で働いていたところを、陛下が見初められました」
答えられない翠玉の代わりに、絨毯のそばまで来た司馬宇が言った。
――なるほど、そういう設定なわけね。
司馬宇が暁嵐と話をつけていることは明らかだったので、翠玉はその内容をすかさず頭に叩き込んだ。
赤い城の真後ろに位置にする、銅色の屋根をした三階建ての城。
その入り口である一階には、女官が一人立っていた。
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ずいぶんと図体が大きく、お世辞にも美人とは言えない女だった。
翠玉は女の顔をチラリと見てから、先を進む司馬宇の後ろに続く。
鈍色に光る銅色の扉を開くと、広々とした部屋の奥に人影が見える。
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紺碧色の絨毯の向こうに段差があり、その上に豪華な長椅子が置いてある。
そこに腰掛けた人物は、穏やかな目つきで二人を迎え入れた。
司馬宇は入ってきた扉を閉めると、その傍らで待機する。
翠玉は衣の裾を摘んで持ち上げると、ゆっくりと絨毯まで歩いた。
そして跪くと、両腕を重ねるようにして頭を下げた。
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「よく来たわね、翠風……私が皇后、名は美雨よ、どうぞ、顔を上げてちょうだい」
思いの外優しい口調に、翠玉は言われた通り顔を上げる。
すると少し離れた先の、穏やかな瞳と視線が合った。
色素の薄い髪を編み込んで後ろに束ね、緩やかに波打った後れ毛を垂らしている。
ハッキリした顔立ちの翠玉に対し、美雨は丸顔でふわりとした印象だ。
蒼玉のような色合いの衣に、金の装飾品をつけている。皇后らしい、上品ながら豪華な装いだ。
翠玉が香り立つ百合の花なら、美雨は池にそっと咲く蓮の花。種類は違うが、どちらも美人であることに違いなかった。
「まあ……これはこれは、急遽後宮入りが決まったと聞いたけれど、生まれはどこ? 親はなにをしているの?」
美雨はいの一番に、翠玉の生い立ちを尋ねた。
どこの馬の骨かわからない娘が皇妃になるのだ、いろいろ聞いてみたくなるのもわかる。
しかし、あまりにあからさまな質問に、翠玉は美雨の性質を見た気がした。
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とはいえ、翠玉はなにも反応できない。
その辺りのことは、暁嵐からなんの指示もなかったからだ。
「翠風は北方の出身で、親は幼い頃に亡くなっております、城下町で働いていたところを、陛下が見初められました」
答えられない翠玉の代わりに、絨毯のそばまで来た司馬宇が言った。
――なるほど、そういう設定なわけね。
司馬宇が暁嵐と話をつけていることは明らかだったので、翠玉はその内容をすかさず頭に叩き込んだ。
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