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二、後宮入り
五
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「ありがとう、とても気に入ったわ」
翠玉がニッコリ笑って礼を言うと、女官たちはホッとしたような、喜びの表情を浮かべた。
そして襖を開けると、背を向けて立っていた司馬宇がこちらを振り返る。
同性でも見惚れるほど麗しい翠玉。異性が見れば思わず心奪われてしまいそうだが、司馬宇はまったく揺らがない。
相変わらずの仏頂面で、冷静に翠玉を見ている。
「支度が済んだなら皇后様のところに挨拶に行くぞ」
「皇后……?」
「陛下の正室様だ、後宮入りした娘は、必ず皇后様に顔を見せるのがしきたりだからな」
司馬宇が話しているうちに、女官たちは衣装や装飾品などを片付けていく。
翠玉は女官たちに会釈をすると、上等な靴に履き替えて、雑魚部屋を出た。
皇后に会いに行くということは、一度後宮を出て、また旺玖院に戻るということだ。
いちいちやり取りがめんどくさい、全部一つの敷地にまとめればいいのに、などと思いながら、翠玉は軽く息をついた。
すっかり道筋を覚えた翠玉は、来た時とは違って、司馬宇の後ろではなく隣を歩く。
「皇后様は血筋や知性も申し分のない方、決して失礼のないようにしろよ……まぁ、さっきの様子を見ていたら、その点は問題なさそうだが」
初めて司馬宇の口から好意的な言葉が出た。
襖を閉じた後も、司馬宇はすぐそばにいたため、翠玉と女官の会話を聞いていたのだ。
「だから大丈夫って言ったでしょ」
「まるで別人だったがな、どこかで教養を学んだのか?」
「淑女として入り込むこともあったからね、ある程度の礼儀作法は心得ているわ」
「……なるほどな」
翠玉の答えに、思わず納得する司馬宇。
石畳みの門番の前に来ると、二人は口を結び、門を通過する。
そして周りに誰もいないことがわかると、翠玉が再び口を開いた。
「それにしても本当に唐突ね、女官たちも困っていたじゃない」
それを聞いた司馬宇は、ふーっと深いため息をついた。
眉間に刻まれた皺が、心労を物語っているようだ。
「……陛下は聡い方ではあるが、たまに突拍子のないことをされる。戦も奇策で勝ち取るのがお得意だ」
「へえ、それは付き合う側にもそれ相応の能力が求められそうね、あんたもずいぶん強かったし……宦官ってそんなものなの?」
「俺は兵士上がりだからな、腕を買われて陛下付きの宦官に抜擢された」
今度は翠玉の方が、納得する番だった。
「なるほど、そういうこと……あんたもそれなりに苦労していそうね」
「……まぁ、刺激のある人生だ」
「ふふ……それなら、私と似ているかもね」
どこか遠くを眺めながら微笑する翠玉は、司馬宇の目に綺麗に映った。
情欲的な意味ではなく、美術品を鑑賞する気持ちに近い。
つい先ほどまで、あれほど嫌悪を抱いていたはずなのに、どこか放っておけないような、人を惹きつける力が、翠玉にはあった。
「あんたではない、司馬宇だ」
「はいはい、司馬宇ね、生きてる間はよろしく」
命を削るような生き方の末、皇帝に届く位置まで這い上がった二人。
翠玉と司馬宇は、実は似た者同士かもしれない。
翠玉がニッコリ笑って礼を言うと、女官たちはホッとしたような、喜びの表情を浮かべた。
そして襖を開けると、背を向けて立っていた司馬宇がこちらを振り返る。
同性でも見惚れるほど麗しい翠玉。異性が見れば思わず心奪われてしまいそうだが、司馬宇はまったく揺らがない。
相変わらずの仏頂面で、冷静に翠玉を見ている。
「支度が済んだなら皇后様のところに挨拶に行くぞ」
「皇后……?」
「陛下の正室様だ、後宮入りした娘は、必ず皇后様に顔を見せるのがしきたりだからな」
司馬宇が話しているうちに、女官たちは衣装や装飾品などを片付けていく。
翠玉は女官たちに会釈をすると、上等な靴に履き替えて、雑魚部屋を出た。
皇后に会いに行くということは、一度後宮を出て、また旺玖院に戻るということだ。
いちいちやり取りがめんどくさい、全部一つの敷地にまとめればいいのに、などと思いながら、翠玉は軽く息をついた。
すっかり道筋を覚えた翠玉は、来た時とは違って、司馬宇の後ろではなく隣を歩く。
「皇后様は血筋や知性も申し分のない方、決して失礼のないようにしろよ……まぁ、さっきの様子を見ていたら、その点は問題なさそうだが」
初めて司馬宇の口から好意的な言葉が出た。
襖を閉じた後も、司馬宇はすぐそばにいたため、翠玉と女官の会話を聞いていたのだ。
「だから大丈夫って言ったでしょ」
「まるで別人だったがな、どこかで教養を学んだのか?」
「淑女として入り込むこともあったからね、ある程度の礼儀作法は心得ているわ」
「……なるほどな」
翠玉の答えに、思わず納得する司馬宇。
石畳みの門番の前に来ると、二人は口を結び、門を通過する。
そして周りに誰もいないことがわかると、翠玉が再び口を開いた。
「それにしても本当に唐突ね、女官たちも困っていたじゃない」
それを聞いた司馬宇は、ふーっと深いため息をついた。
眉間に刻まれた皺が、心労を物語っているようだ。
「……陛下は聡い方ではあるが、たまに突拍子のないことをされる。戦も奇策で勝ち取るのがお得意だ」
「へえ、それは付き合う側にもそれ相応の能力が求められそうね、あんたもずいぶん強かったし……宦官ってそんなものなの?」
「俺は兵士上がりだからな、腕を買われて陛下付きの宦官に抜擢された」
今度は翠玉の方が、納得する番だった。
「なるほど、そういうこと……あんたもそれなりに苦労していそうね」
「……まぁ、刺激のある人生だ」
「ふふ……それなら、私と似ているかもね」
どこか遠くを眺めながら微笑する翠玉は、司馬宇の目に綺麗に映った。
情欲的な意味ではなく、美術品を鑑賞する気持ちに近い。
つい先ほどまで、あれほど嫌悪を抱いていたはずなのに、どこか放っておけないような、人を惹きつける力が、翠玉にはあった。
「あんたではない、司馬宇だ」
「はいはい、司馬宇ね、生きてる間はよろしく」
命を削るような生き方の末、皇帝に届く位置まで這い上がった二人。
翠玉と司馬宇は、実は似た者同士かもしれない。
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