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二、後宮入り

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「大きさが合うものがございませぬ、後何枚か持ってくるか、縫って調整するか」

 困り顔で相談を始める女官たち。その瞳には、僅かながら羨望も込められていた。

「大丈夫ですよ、多少キツかろうと緩かろうと、私が我慢すれば済む話ですから」
「ですが……」
「まだ部屋もないのに、急かしてしまって申し訳ありません、女官の方たちは本当に大変ですね」

 胸に手を当て、慈愛の表情を浮かべる翠玉。
 彼女は自身の魅せ方をよくわかっている。身分が低い者が、どんな言葉を欲しているかも。
 その証拠に、女官たちは感激した様子で翠玉をじっと見つめた。

「なんとお優しい方なのでしょう」
「女官ごときに、そんな言葉をかけてくださる皇妃様は、そういらっしゃいません」
「そうそう、私どもに敬語は不要ですよ、女官は皇妃様よりもずっと身分が低いですから」

 各々、翠玉への感謝を口にする女官たち。
 それを聞いた翠玉は、皇妃から女官への敬語がいらないことを知った。
 翠玉は宮中に潜入する予定ではなかったので、後宮のしきたりは予習してきていなかった。
 ――なぁんだ、使って損しちゃった。
 そう思いながら、心の中で舌を出す、もちろん、周りにはバレないように。

「あら、そう……? なら、そうさせてもらいましょうか」
「はい、ぜひ」

 にこやかに頷く女官たちを前に、翠玉は思う。
 ずっと前から勤めている人間よりも、入ってきたばかりの自分の方が身分が高いだなんて。
 皇帝陛下の寵愛で、すべてが決まると言っても過言ではない世界。
 噂には聞いていたけれど、後宮とは本当に、奇妙な場所だ――と。
 それから女官たちは時間をかけて、丁寧に翠玉を着飾った。
 真っ白な絹の羽織りに、翡翠を思わせる鮮やかな緑の衣。ふわりと広がった裾には、花の刺繍が施してある。
 髪は横の一部を後ろに回し、上に結い上げられている。そして頭の左右には、白百合の髪飾りが咲いていた。
 翠玉は姿見に映る自身を観察した。
 今まで暗殺の邪魔にならないよう、髪は一つ結びにするのが基本だった。
 そんな翠玉にとって、下ろした髪は少しくすぐったく感じた。が、悪くない、というのが率直な感想だ。

「いかがでしょうか、司馬宇様より、陛下から翠風様には翡翠のように美しいものを、との伝達でしたので」

 女官の話で、暁嵐が衣装の注文をしたことがわかる。
 ――なに、あの男。こんな趣味までいいなんて。
 翠玉は鼻持ちならないと思いつつも、ここは喜ぶ気持ちの方が大きい。
 翠玉も女なのだ。どうせ着るなら、美しい衣装の方がいい。
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