14 / 113
二、後宮入り
三
しおりを挟む
二人が石畳みを歩いていると、通りすがりの女官たちが頭を下げる。
そしてその後少し顔を上げて、チラッと翠玉を盗み見た。
白昼堂々、白い寝巻きを着た状態の女が、皇帝付きの宦官に連れられているのだ。
一体、どういう状況なのかと、不思議に感じるのも無理はない。
しかし翠玉はあくまで毅然とした態度で歩いている。
そんな翠玉の様子を、前を行く司馬宇がチラリと窺う。
――ふん、暗殺者なだけあって、肝が座っているな。
司馬宇は胸の内で呟きながら、目的地へ向かう。
やがて見えてきた、長屋のような建物。その一室の前に、数人の女官が待機していた。
二人の到着に気づいた女官たちは、みんな揃って深々と頭を下げた。
「あなたが翠風様ですね、先ほど司馬宇様にお伺いしました」
「手が空いている女官をかき集めましたので、身支度をさせていただきます」
翠玉と同年代であろう、三人の女官はみんな、髪を高い位置で一つのお団子にしている。
そして山吹色の作務衣のような上着に、焦茶色の袴を身につけていた。
翠玉はその女官の顔を素早く確認した。
そして内心、ため息をつく。
――まぁ、そんな都合よく会えるわけない、か。
女官に促され、翠玉は木造の段差を上がると、部屋の中に入った。
長屋のように繋がった建物の一室、煌びやかなものはなにもなく、ただ広いだけの質素な空間。
それもそのはず、ここは下級の女官たちが使う雑魚部屋なのだから。
「こんな部屋しかなく申し訳ありません、すぐに用意できる場所がここしかなく……」
「いいえ、問題ありません、わざわざありがとうございます」
そう言って柔らかな微笑みを見せる翠玉に、女官たちはほう……と一瞬見惚れる。
外でその様子を見ていた司馬宇は、いささか面食らっていた。
女官はそんな司馬宇にお辞儀をすると、襖を閉めて、翠玉の身支度を開始する。
しかしそれは、決してすんなりとはいかなかった。
なんせ突然のことだったので、準備の時間が不十分だったのだ。
翠玉の髪を結う飾りがないだの、帯締めが足りないだの、室内は実に慌しかった。
「ずいぶんか細いのに、出るところは出ていらっしゃって……」
一人の女官が、翠玉の裸体を採寸しながらぼやく。
翠玉の体型が美しすぎるせいで、一般的な衣装の大きさが合わなかった。
そしてその後少し顔を上げて、チラッと翠玉を盗み見た。
白昼堂々、白い寝巻きを着た状態の女が、皇帝付きの宦官に連れられているのだ。
一体、どういう状況なのかと、不思議に感じるのも無理はない。
しかし翠玉はあくまで毅然とした態度で歩いている。
そんな翠玉の様子を、前を行く司馬宇がチラリと窺う。
――ふん、暗殺者なだけあって、肝が座っているな。
司馬宇は胸の内で呟きながら、目的地へ向かう。
やがて見えてきた、長屋のような建物。その一室の前に、数人の女官が待機していた。
二人の到着に気づいた女官たちは、みんな揃って深々と頭を下げた。
「あなたが翠風様ですね、先ほど司馬宇様にお伺いしました」
「手が空いている女官をかき集めましたので、身支度をさせていただきます」
翠玉と同年代であろう、三人の女官はみんな、髪を高い位置で一つのお団子にしている。
そして山吹色の作務衣のような上着に、焦茶色の袴を身につけていた。
翠玉はその女官の顔を素早く確認した。
そして内心、ため息をつく。
――まぁ、そんな都合よく会えるわけない、か。
女官に促され、翠玉は木造の段差を上がると、部屋の中に入った。
長屋のように繋がった建物の一室、煌びやかなものはなにもなく、ただ広いだけの質素な空間。
それもそのはず、ここは下級の女官たちが使う雑魚部屋なのだから。
「こんな部屋しかなく申し訳ありません、すぐに用意できる場所がここしかなく……」
「いいえ、問題ありません、わざわざありがとうございます」
そう言って柔らかな微笑みを見せる翠玉に、女官たちはほう……と一瞬見惚れる。
外でその様子を見ていた司馬宇は、いささか面食らっていた。
女官はそんな司馬宇にお辞儀をすると、襖を閉めて、翠玉の身支度を開始する。
しかしそれは、決してすんなりとはいかなかった。
なんせ突然のことだったので、準備の時間が不十分だったのだ。
翠玉の髪を結う飾りがないだの、帯締めが足りないだの、室内は実に慌しかった。
「ずいぶんか細いのに、出るところは出ていらっしゃって……」
一人の女官が、翠玉の裸体を採寸しながらぼやく。
翠玉の体型が美しすぎるせいで、一般的な衣装の大きさが合わなかった。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ@キャラ文芸大賞参加中!
キャラ文芸
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
薔薇の耽血(バラのたんけつ)
碧野葉菜
キャラ文芸
ある朝、萌木穏花は薔薇を吐いた——。
不治の奇病、“棘病(いばらびょう)”。
その病の進行を食い止める方法は、吸血族に血を吸い取ってもらうこと。
クラスメイトに淡い恋心を抱きながらも、冷徹な吸血族、黒川美汪の言いなりになる日々。
その病を、完治させる手段とは?
(どうして私、こんなことしなきゃ、生きられないの)
狂おしく求める美汪の真意と、棘病と吸血族にまつわる闇の歴史とは…?
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ガールズバンド“ミッチェリアル”
西野歌夏
キャラ文芸
ガールズバンド“ミッチェリアル”の初のワールドツアーがこれから始まろうとしている。このバンドには秘密があった。ワールドツアー準備合宿で、事件は始まった。アイドルが世界を救う戦いが始まったのだ。
バンドメンバーの16歳のミカナは、ロシア皇帝の隠し財産の相続人となったことから嫌がらせを受ける。ミカナの母国ドイツ本国から試客”くノ一”が送り込まれる。しかし、事態は思わぬ展開へ・・・・・・
「全世界の動物諸君に告ぐ。爆買いツアーの開催だ!」
武器商人、スパイ、オタクと動物たちが繰り広げるもう一つの戦線。
あやかし探偵倶楽部、始めました!
えっちゃん
キャラ文芸
文明開化が花開き、明治の年号となり早二十数年。
かつて妖と呼ばれ畏れられていた怪異達は、文明開化という時勢の中、人々の記憶から消えかけていた。
母親を流行り病で亡くした少女鈴(すず)は、母親の実家であり数百年続く名家、高梨家へ引き取られることになった。
高梨家では伯父夫婦から冷遇され従兄弟達から嫌がらせにあい、ある日、いわくつきの物が仕舞われている蔵へ閉じ込められてしまう。
そして偶然にも、隠し扉の奥に封印されていた妖刀の封印を解いてしまうのだった。
多くの人の血肉を啜った妖刀は長い年月を経て付喪神となり、封印を解いた鈴を贄と認識して襲いかかった。その結果、二人は隷属の契約を結ぶことになってしまう。
付喪神の力を借りて高梨家一員として認められて学園に入学した鈴は、学友の勧誘を受けて“あやかし探偵俱楽部”に入るのだが……
妖達の起こす事件に度々巻き込まれる鈴と、恐くて過保護な付喪神の話。
*素敵な表紙イラストは、奈嘉でぃ子様に依頼しました。
*以前、連載していた話に加筆手直しをしました。のんびり更新していきます。
願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい
戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。
人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください!
チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!!
※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。
番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」
「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる