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二、後宮入り
一
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暁嵐が部屋を出て数分後、再び扉が開かれた。
翠玉は寝台に座ったまま、布団で身体を隠した状態で、扉を振り返る。
帳が開かれているため、すぐに中に入ってきた人物と目が合った。
司馬宇はツカツカと寝台に歩み寄ると、右手に持った白い衣を翠玉に差し出す。
いや、差し出すというよりも、突き出したといった方が正しい。それくらい雑な動きだった。
翠玉が片手でそれを受け取ると、司馬宇は翠玉に背を向ける。
一応、裸を見ないための配慮らしい。
翠玉は身体を隠していた布団を取ると、渡された衣類に着替える。白一色の、着物のような寝巻きだった。
「それを着たら衣装部屋に案内する」
「なんでわざわざ移動するの、ここで済ませればいいじゃない」
「単なる女官が陛下の私室に入れるわけがなかろう」
それを聞いた翠玉は、単なる暗殺者は入っていいのかと突っ込みたくなった。
「できたわよ」
「ならさっさとついてこい」
「なによあんた、皇帝でもないくせに偉そうね」
「陛下付きの宦官だ、宦官の中では一番位が高い……なにより、陛下の命を狙った者にくれてやる礼儀はない」
あからさまに嫌悪感を示す司馬宇だが、翠玉は腹の中で笑っていた。
「私に出し抜かれたくせに……」
「なにか言ったか」
「別になんでもないわ」
実際、翠玉の刃は暁嵐に届きそうなところまで行ったのだ。暁嵐本人に阻まれたせいで、成せなかったが。
司馬宇自身もそれをわかっているため、なおのこと面白くない。
「まったく、陛下はなぜこんな女を皇妃に……」
「私だってなりたくてなるわけじゃないわよ」
寝台から立ち上がった翠玉は、司馬宇についていく。
途中で翠玉が室内を見渡したが、翠玉が着てきた衣類も、奥歯に仕込んでいた棘もなくなっていた。
翠玉が眠っているうちに、暁嵐が片付けたようだ。
翠玉はその余裕にまた少し悔しくなった。
翠玉は寝台に座ったまま、布団で身体を隠した状態で、扉を振り返る。
帳が開かれているため、すぐに中に入ってきた人物と目が合った。
司馬宇はツカツカと寝台に歩み寄ると、右手に持った白い衣を翠玉に差し出す。
いや、差し出すというよりも、突き出したといった方が正しい。それくらい雑な動きだった。
翠玉が片手でそれを受け取ると、司馬宇は翠玉に背を向ける。
一応、裸を見ないための配慮らしい。
翠玉は身体を隠していた布団を取ると、渡された衣類に着替える。白一色の、着物のような寝巻きだった。
「それを着たら衣装部屋に案内する」
「なんでわざわざ移動するの、ここで済ませればいいじゃない」
「単なる女官が陛下の私室に入れるわけがなかろう」
それを聞いた翠玉は、単なる暗殺者は入っていいのかと突っ込みたくなった。
「できたわよ」
「ならさっさとついてこい」
「なによあんた、皇帝でもないくせに偉そうね」
「陛下付きの宦官だ、宦官の中では一番位が高い……なにより、陛下の命を狙った者にくれてやる礼儀はない」
あからさまに嫌悪感を示す司馬宇だが、翠玉は腹の中で笑っていた。
「私に出し抜かれたくせに……」
「なにか言ったか」
「別になんでもないわ」
実際、翠玉の刃は暁嵐に届きそうなところまで行ったのだ。暁嵐本人に阻まれたせいで、成せなかったが。
司馬宇自身もそれをわかっているため、なおのこと面白くない。
「まったく、陛下はなぜこんな女を皇妃に……」
「私だってなりたくてなるわけじゃないわよ」
寝台から立ち上がった翠玉は、司馬宇についていく。
途中で翠玉が室内を見渡したが、翠玉が着てきた衣類も、奥歯に仕込んでいた棘もなくなっていた。
翠玉が眠っているうちに、暁嵐が片付けたようだ。
翠玉はその余裕にまた少し悔しくなった。
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