6 / 24
一、暗殺者と標的
六
しおりを挟む
「おまけに見た目も精悍で、体格も整っていらっしゃる……女性から引く手数多だと噂に聞いていましたが、これでは目の肥えた婦人も夢中になるはずです」
暁嵐が女好きであることを思い出した翠玉は、これを利用しない手はないと考えた。
わざわざ綺麗な寝室に運ぶくらいだ、最初からその気だったのだろう。
ならば、まだ好機はあると踏んだ翠玉は、ここぞとばかりに色仕掛けを遂行する。
「……どうせ私は殺されるのでしょう、ならば、最期に思い出をくださいませんか、今まで、暗殺家業でゴミのような人生だった私に――」
同情したくなるような苦労話に、儚げな雰囲気、ねっとりと絡みつくような息遣いで、上目遣いに見上げる。
「皇帝陛下、どうか、私を――」
白い肌を紅潮させ、瞳を潤ませながら切望する。
――どう? たまらないでしょう? 皇帝だって所詮は男。ならば、私に勝機あり。
腹の中で毒づく翠玉に、暁嵐は真剣な顔を向けた。
「……このように美しいおなごが、暗殺者とは信じられぬほどじゃ」
暁嵐はそう言いながら、翠玉に手を伸ばした。
「安心せよ、お前のことは、わしが極楽へ連れていってやる」
翠玉は暁嵐の顔が近づいてくるのを待っていた。
男のやることなんて大体同じ。まずは最初に口づけが来る。だからその時に仕掛けてやるのだと。
しかし、暁嵐の手は翠玉の思い通りには動かなかった。
頬に優しく添えられると読んだはずのそれは、突如、翠玉の口の中に突っ込まれた。
「も、もが……!?」
「ただし、これを捨ててからな」
暁嵐は翠玉の口を右手で開き、左手で奥歯に光る棘のようなものを取り出した。
口づけすればプスリと一発、猛毒を仕込んだ棘を舌にお見舞いしてやる。そんな翠玉の計画はあえなく潰えた。
「な、な、なんで!?」
「上手い話には裏があるからの、そんな都合よくわしに惚れるはずがなかろう」
棘状の道具をポンとその辺に放る暁嵐に、翠玉の苛立ちが爆発する。
「ハァ!? なによそれっ、男なんて自惚れが強くてバカなもんでしょ、大人しくこの翠玉様にやられなさいよ!」
「ほう、翠玉というのか」
勢いで本名を口走ってしまった翠玉は、グッと言葉に詰まった。
もはや取り繕うこともしなくなった翠玉は、無駄な抵抗とわかっていながら両手を振り上げる。が、当然手枷がビーンと伸びるだけで、自由は利かない。
そんな翠玉の様子を、それはもう愉しげに眺める暁嵐。
やがて彼は身を乗り出し、翠玉の顎を強く掴んだ。
「見目に相応しい名じゃな、翠玉」
翠玉の目前に迫る真紅の瞳。
それが翠玉には、チカチカと熱を帯びて輝いているように見えた。
暁嵐が女好きであることを思い出した翠玉は、これを利用しない手はないと考えた。
わざわざ綺麗な寝室に運ぶくらいだ、最初からその気だったのだろう。
ならば、まだ好機はあると踏んだ翠玉は、ここぞとばかりに色仕掛けを遂行する。
「……どうせ私は殺されるのでしょう、ならば、最期に思い出をくださいませんか、今まで、暗殺家業でゴミのような人生だった私に――」
同情したくなるような苦労話に、儚げな雰囲気、ねっとりと絡みつくような息遣いで、上目遣いに見上げる。
「皇帝陛下、どうか、私を――」
白い肌を紅潮させ、瞳を潤ませながら切望する。
――どう? たまらないでしょう? 皇帝だって所詮は男。ならば、私に勝機あり。
腹の中で毒づく翠玉に、暁嵐は真剣な顔を向けた。
「……このように美しいおなごが、暗殺者とは信じられぬほどじゃ」
暁嵐はそう言いながら、翠玉に手を伸ばした。
「安心せよ、お前のことは、わしが極楽へ連れていってやる」
翠玉は暁嵐の顔が近づいてくるのを待っていた。
男のやることなんて大体同じ。まずは最初に口づけが来る。だからその時に仕掛けてやるのだと。
しかし、暁嵐の手は翠玉の思い通りには動かなかった。
頬に優しく添えられると読んだはずのそれは、突如、翠玉の口の中に突っ込まれた。
「も、もが……!?」
「ただし、これを捨ててからな」
暁嵐は翠玉の口を右手で開き、左手で奥歯に光る棘のようなものを取り出した。
口づけすればプスリと一発、猛毒を仕込んだ棘を舌にお見舞いしてやる。そんな翠玉の計画はあえなく潰えた。
「な、な、なんで!?」
「上手い話には裏があるからの、そんな都合よくわしに惚れるはずがなかろう」
棘状の道具をポンとその辺に放る暁嵐に、翠玉の苛立ちが爆発する。
「ハァ!? なによそれっ、男なんて自惚れが強くてバカなもんでしょ、大人しくこの翠玉様にやられなさいよ!」
「ほう、翠玉というのか」
勢いで本名を口走ってしまった翠玉は、グッと言葉に詰まった。
もはや取り繕うこともしなくなった翠玉は、無駄な抵抗とわかっていながら両手を振り上げる。が、当然手枷がビーンと伸びるだけで、自由は利かない。
そんな翠玉の様子を、それはもう愉しげに眺める暁嵐。
やがて彼は身を乗り出し、翠玉の顎を強く掴んだ。
「見目に相応しい名じゃな、翠玉」
翠玉の目前に迫る真紅の瞳。
それが翠玉には、チカチカと熱を帯びて輝いているように見えた。
0
お気に入りに追加
2
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
七年間の婚約は今日で終わりを迎えます
hana
恋愛
公爵令嬢エミリアが十歳の時、第三王子であるロイとの婚約が決まった。しかし婚約者としての生活に、エミリアは不満を覚える毎日を過ごしていた。そんな折、エミリアは夜会にて王子から婚約破棄を宣言される。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
前略、旦那様……幼馴染と幸せにお過ごし下さい【完結】
迷い人
恋愛
私、シア・エムリスは英知の塔で知識を蓄えた、賢者。
ある日、賢者の天敵に襲われたところを、人獣族のランディに救われ一目惚れ。
自らの有能さを盾に婚姻をしたのだけど……夫であるはずのランディは、私よりも幼馴染が大切らしい。
「だから、王様!! この婚姻無効にしてください!!」
「My天使の願いなら仕方ないなぁ~(*´ω`*)」
※表現には実際と違う場合があります。
そうして、私は婚姻が完全に成立する前に、離婚を成立させたのだったのだけど……。
私を可愛がる国王夫婦は、私を妻に迎えた者に国を譲ると言い出すのだった。
※AIイラスト、キャラ紹介、裏設定を『作品のオマケ』で掲載しています。
※私の我儘で、イチャイチャどまりのR18→R15への変更になりました。 ごめんなさい。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる