皇帝癒し人~殺される覚悟で来たのに溺愛されています~

碧野葉菜

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第七章、嘘みたいな現実

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「あの、豪龍様は今、どこに?」

 そう尋ねた瞬間、あたしを抱きしめた雷華さんがピクリと反応を示した。
 そして、すっとあたしから離れると、目を合わさずに口を開く。

「……陛下は、以前と変わらず、政権を奮われています。ですが……私たちはもう、以前のようには戻れません」

 胸がざわめく。豪龍様は元通りだけど、あたしたちはそうじゃないって――?

「……どういう、こと……?」

 呉の二人は目配せし合うと、暗い顔でコクリと頷いた。

「私たちの罪は先ほどお話しした通りです。陛下を呪ったミハイロは当然、皇太后様を殺めた小龍様も同様……そして、ピケ様の罪は――」

 ああ、そうか――。
 雹華さんの話の流れで、言わんとしていることがわかった。
 その続きは、自分自身が一番わかってる。

「……力がないことを黙って、みんなを騙していたこと……」

 その事実は決して、消えることじゃない。
 ミハイロさんか、小龍様か、はたまた事情を知った呉のどちらかが、位の高い臣下に直訴したのか。詳しいことはわからないけど、問いただす気にはならなかった。
 だって、どれだけ罪深いことをしたのか、自分が一番わかっていたから。

「……陛下は、私たちに流刑を言い渡されました」

 流刑……島流しってやつだ。死刑の次にひどい刑だって聞いたことがある。

「……こうするしか、なかったのだと思います。どうか、陛下を憎まないでください」

 憎むなんて、そんなこと考えもしなかった。
 ここに来てからの暮らしは、あたしの人生で一番幸せだった。期間にしては短かったけど、百年くらい価値のある、充実した日々だった。

「……よかった」

 この一言が、あたしの本音だ。
 最も望んだのは、豪龍様の命を繋ぐこと。それができたから、生まれてきてよかったと思えた。この世に存在した意味があったと。

「豪龍様がお元気なら、それでいいんです。あたしの人生なんて、とっくの昔に終わってたから……だから、少しでも豪龍様のお役に立てたなら、本望です。もう、なにも言うことはありません」
「ピケ様……」

 ニッコリ微笑むと、今度は二人同時にあたしを抱きしめてくれた。

「ピケ様が目を覚まされたので、近いうちに私たちの刑は執行されるでしょう」
「ミハイロと小龍様が先に送られた島に……私たちも流れ着くはずです」
「……うん、わかった」

 薄暗い地下牢で、あたしたちは身を寄せ合いながら、運命の時を待った。
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