79 / 104
第六章、解放までの道
六
しおりを挟む
「ピケ様……先ほどの会話……まさか、お一人でお出かけしようだなんて、考えられてませんよねーえ?」
「え? なんのことですか?」
隣を歩く雷華さんは、じとっと疑り深い目であたしを見てる。
もちろんあたしはしらをきる。豪龍様のためなら、演技だってしてみせる。
「いえ、なんでもないならいいですよー、まぁ、なにがあっても、私か雹華がおともしますけどねーぇ」
雷華さんがそう言った時、大階段から降りてくる彼の姿が目に入った。
赤いお城に戻る前に立ち止まって、その人の到着を待った。
「ピケ様、陛下からことづけを承っております」
こっちのきっかけはあたしが作ってもよかったのに、豪龍様が手を回してくれたみたいだ。
おかげでこれで、種蒔きが終わる。
「ミハイロさんっていつもお忙しそうですが、お一人で出かけたりすることはないんですか?」
あたしの前で足を止めたミハイロさんは、考える間も置かず答える。
「ありませんよ、特に休暇という概念も存在しませんし」
「そうなんですか、じゃあせっかく眺めのいい場所を知っていても、お月見を楽しむ暇もありませんね……今日は天気がいいので、きっと月が綺麗に見えるでしょうが」
緑の宝石みたいな瞳が、一瞬揺らいだ気がした。
ミハイロさんも、あの場所を知らないはずがない。そこで、前皇帝様を焼いたのだから。
「……そうですね、なかなかそのような余裕はありません」
「ですよね、あたしみたいに暇な人間なら、一人で行けますけど」
「ぜーったいにいけませんよっ、ピケ様!」
雷華さんからすかさず制止の声が飛んできて、あたしはあははと笑う。
「冗談ですよ、そんなこと豪龍様に頼んだりしませんから」
つまり、頼めば許される可能性が高いということ。
ミハイロさんも賢い人だ。きっと、あたしの今夜の動きを読んでくれることだろう。
「ところで、豪龍様からの伝言は?」
「ええ、なんでも、今宵の逢瀬は明日に回すと……」
「……やっぱり、豪龍様はあたしに甘いみたいですね」
そんな台詞を残すと、あたしは微笑んでミハイロさんの元を去った。
これで準備は整った。
恐らく、決まる、今宵……豪龍様の……あたしたちの、運命が――。
「え? なんのことですか?」
隣を歩く雷華さんは、じとっと疑り深い目であたしを見てる。
もちろんあたしはしらをきる。豪龍様のためなら、演技だってしてみせる。
「いえ、なんでもないならいいですよー、まぁ、なにがあっても、私か雹華がおともしますけどねーぇ」
雷華さんがそう言った時、大階段から降りてくる彼の姿が目に入った。
赤いお城に戻る前に立ち止まって、その人の到着を待った。
「ピケ様、陛下からことづけを承っております」
こっちのきっかけはあたしが作ってもよかったのに、豪龍様が手を回してくれたみたいだ。
おかげでこれで、種蒔きが終わる。
「ミハイロさんっていつもお忙しそうですが、お一人で出かけたりすることはないんですか?」
あたしの前で足を止めたミハイロさんは、考える間も置かず答える。
「ありませんよ、特に休暇という概念も存在しませんし」
「そうなんですか、じゃあせっかく眺めのいい場所を知っていても、お月見を楽しむ暇もありませんね……今日は天気がいいので、きっと月が綺麗に見えるでしょうが」
緑の宝石みたいな瞳が、一瞬揺らいだ気がした。
ミハイロさんも、あの場所を知らないはずがない。そこで、前皇帝様を焼いたのだから。
「……そうですね、なかなかそのような余裕はありません」
「ですよね、あたしみたいに暇な人間なら、一人で行けますけど」
「ぜーったいにいけませんよっ、ピケ様!」
雷華さんからすかさず制止の声が飛んできて、あたしはあははと笑う。
「冗談ですよ、そんなこと豪龍様に頼んだりしませんから」
つまり、頼めば許される可能性が高いということ。
ミハイロさんも賢い人だ。きっと、あたしの今夜の動きを読んでくれることだろう。
「ところで、豪龍様からの伝言は?」
「ええ、なんでも、今宵の逢瀬は明日に回すと……」
「……やっぱり、豪龍様はあたしに甘いみたいですね」
そんな台詞を残すと、あたしは微笑んでミハイロさんの元を去った。
これで準備は整った。
恐らく、決まる、今宵……豪龍様の……あたしたちの、運命が――。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~
紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。
行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。
※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。
ナマズの器
螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。
不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。
生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します
桜桃-サクランボ-
恋愛
人身御供(ひとみごくう)は、人間を神への生贄とすること。
天魔神社の跡取り巫女の私、天魔華鈴(てんまかりん)は、今年の人身御供の生贄に選ばれた。
昔から続く儀式を、どうせ、いない神に対して行う。
私で最後、そうなるだろう。
親戚達も信じていない、神のために、私は命をささげる。
人身御供と言う口実で、厄介払いをされる。そのために。
親に捨てられ、親戚に捨てられて。
もう、誰も私を求めてはいない。
そう思っていたのに――……
『ぬし、一つ、我の願いを叶えてはくれぬか?』
『え、九尾の狐の、願い?』
『そうだ。ぬし、我の嫁となれ』
もう、全てを諦めた私目の前に現れたのは、顔を黒く、四角い布で顔を隠した、一人の九尾の狐でした。
※カクヨム・なろうでも公開中!
※表紙、挿絵:あニキさん
【完結】獅子の威を借る子猫は爪を研ぐ
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
魔族の住むゲヘナ国の幼女エウリュアレは、魔力もほぼゼロの無能な皇帝だった。だが彼女が持つ価値は、唯一無二のもの。故に強者が集まり、彼女を守り支える。揺らぐことのない玉座の上で、幼女は最弱でありながら一番愛される存在だった。
「私ね、皆を守りたいの」
幼い彼女の望みは優しく柔らかく、他国を含む世界を包んでいく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/20……完結
2022/02/14……小説家になろう ハイファンタジー日間 81位
2022/02/14……アルファポリスHOT 62位
2022/02/14……連載開始
体質が変わったので 改め『御崎兄弟のおもひで献立』
JUN
キャラ文芸
花粉症にある春突然なるように、幽霊が見える体質にも、ある日突然なるようだ。望んでもいないのに獲得する新体質に振り回される主人公怜の、今エピソードは――。3月1日TOブックスより発売決定しました。オンライン予約受付中です。

新説・鶴姫伝! 日いづる国の守り神 PART6 ~もう一度、何度でも!~
朝倉矢太郎(BELL☆PLANET)
キャラ文芸
長きに渡る日本奪還の戦いも、いよいよこれで最終章。
圧倒的な力を誇る邪神軍団に、鶴と誠はどのように立ち向かうのか!?
この物語、とわに日本を守ります!
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる