皇帝癒し人～殺される覚悟で来たのに溺愛されています～

第五章、押し寄せる不穏

六

「ピケ、と申したな、その後、浩然の具合はどうだ？」

　その質問に、あたしは豪龍様の話を思い出した。
　誰かに浩然様の具合を聞かれた時の対処法を。

「……なかなか重い病であられますが、少しずつ軽快に向かっておられます。まだ時間はかかると思いますが」

　あたしは豪龍様に教えられた通りの答えを述べた。
　事前に聞いておいてよかった。まるでこうなることを予期していたみたい、豪龍様は用意周到だ。
　あたしの答えを聞いた皇太后様は「そうかそうか」と穏やかに相槌を打った。
　紫を基調とした豪華な衣装に、黒髪を頭のてっぺんで大きな一つのお団子にしてる。

「いや、ずいぶん浩然の姿を見ておらぬゆえ、経過が気になっての。あれは気に入りの妾めかけが死んでからというもの、塞ぎ込んでほとんど廃人になり、表に出てこぬようになったのでな。寝所を見舞おうとすれば、叫ぶは暴れるわで手がつけられぬゆえ、誰も顔を見ることさえ叶わぬようになった。あの女が生み落としたあやつ以外はな――」

　最後の言葉が引っかかるけど、それを除けば、単純に前皇帝である夫――浩然様が心配であたしを呼び出したのかと思った。
　次の台詞を聞くまでは――。
　
「時にそなた……豪龍と上手くやっておるようだな？」
「……上手く、とは……？」
「隠さずともよい、寵愛を受けておるのだろう？」

　豪華な長椅子の手すりにもたれるように、肘をつきながら問う皇太后様。
　穏やかな垂れ目が小龍様に似てる。だけど、その奥に、並々ならぬなにかを感じる。
　どうしてそんなことを聞くのか、質問を返すわけにもいかず、あたしは当たり障りのない答えを探した。

「……豪龍様は、とっても優しくしてくださっています」

　その返事を聞いた皇太后様は、にいぃと口の両端を上げた。三日月型に変形した目に映されたあたしは、蛇に睨まれた蛙のようになってしまった。

「よいよい、まさかあの堅物がのぉ……異国の少女に溺れるとは……本来、皇后――皇帝の妻の家である城に住まわせるとは、よほどであろう」

　皇太后様のおっしゃる通り、実はあたしが今住んでいるお城は、皇帝様の正妻のために用意されたものだ。それは初めての夜伽から、数日経って知らされた。
　紫のお城は皇太后様、赤のお城は皇后様。歴代からそう決まっているらしい。
　そんな中にあたしみたいなよそ者が入り込んだから、許せなくて罰を与えたくて呼び出されたのかもしれない。
　だけど皇太后様はあたしの考えに反して、急に憐れむような慈愛に満ちた表情をした。