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第五章、押し寄せる不穏

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「……痛たた」

 顔を歪めて腰をさすりながらも、右手に持った本を確かめる。
 表紙に大きく書かれた黒い二文字。紙が黄ばんで、文字は掠れているものの、よく見ると『呪術』と書いてあるのがわかる。
 だけどやっぱり、埃はついてない。本もすごく取りやすかったし、まるで、つい最近、誰かが読んだみたいだ。
 あたしはジンジンするお尻を上げて、床に正座をすると本を開いた。
 するとそこには、尻もちの痛みを忘れるほどの情報が書いてあった。
 呪術、それは、人を呪うこと。特定の相手の自由を奪ったり、またはその人を自在に操ったり、あるいは死に至らしめるなど――あらゆる方法が記されていたのだ。
 この内容を見た時、ふと、いつかの雷華さんの言葉が脳裏をかすめた。
 
『時には呪いなんかも――』
 
 なによりあたしを驚かせたのは、次に開いたページに記載された絵だった。
 腕や足、胸や背中など、身体のさまざまな部分が描いてある。そして、そのすべてに、見覚えのある痣が刻まれていた。
 白黒だから色まではわからない。だけど、この蛇のようにうねった形に、黒っぽく表現された禍々しい痣は、まさに豪龍様の背中に巣食うそれにそっくりだった。
 以前、豪龍様の痣から受けた、奇妙な感覚……それが、確信に変わりつつあった。
 もしも呪いが原因だとしたら、それを解く方法まで書いてあるかもしれない。
 そんな期待を込めてもう一枚めくるけど、なんとその先のページはどこにもなかった。
 本の中心ギリギリのところに、僅かに切り取られた形跡がある。
 誰かが誰かを呪うために、持っていったとしか思えない。
 一ヶ月かけてようやく見つけた手がかり。そのまま持ち出すのは目立つから、他の本についたカバーを被せて、自分の部屋まで持ち帰ることにした。
 カバーがなくなった本を、呪術の本があった場所に入れる。
 そして一冊分、隙間ができた前列を、隠すように本で埋めた。
 気になった部分を思いきって破ろうかとも考えたけど、壮国に保管された歴史的書物に、さらなる傷をつけることはできなかった。
 これを破った人はなかなか大胆だ。その方が本の数が減らないから、周りに知られる危険も少ないし、冷静な判断もできる人なのかなと思った。
 呪いの本を両手で大事に抱えたあたしは、書庫を出た。
 そしてその後、事件が起きる。
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