皇帝癒し人~殺される覚悟で来たのに溺愛されています~

碧野葉菜

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第四章、力になりたい。

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「ピケ様のおっしゃる通り、陛下はお忙しい身。長時間くつろがれる余裕はございません。お身体の具合でも悪くない限り」

 少し透けたカーテンから覗くのは、お団子頭のスタイルのいい人型。見覚えがある影に、聞き覚えのある声。口調からして、雹華さんの方かなと思う。
 それを聞いた豪龍様は、眉を顰めて険しい顔をした。

「朝食はいらぬゆえ、その分ピケと過ごす」
 
 まさかの返事に、あたしは目を剥いて豪龍様を見た。
 あんなに豪華な朝ご飯を食べないなんて、そんなのダメです――と言ったところで、豪龍様は聞いてくれそうにない。
 雹華さんもそれを感じ取ったのか、少し間を置いた後「承知いたしました」と言った。

「今朝に限り、食事係に伝えておきます。ですが、その後のご予定は滞りなく進められますように」
「ふん、言われずともわかっておる」
「……ピケ様、大丈夫ですか?」
「あ、は、はいっ、問題ありません!」

 突然声をかけられて、大袈裟に反応してしまう。 
 だけど本当に大丈夫だ。雷華さんが言っていたような、無体なことは全然されなかったから。

「それはようございました……ピケ様、時計の見方はご存知ですか?」
「……ええと、時計はよくわかりませんが、数字ならそれなりに読めると思います」

 この国の数も、本である程度学んだけど、なんでそんなこと聞くんだろう。
 だけど、その理由はすぐに明らかになる。

「では、すぐそばにある台に置いた時計の、短い針が七、長い針が十二に来たら、必ず陛下を部屋から出してください。ピケ様が言わなければ、永遠にここにいらっしゃる気がするので」
「わ、わかりました」
「よろしくお願いいたします。では」

  その言葉を最後に、真紅のカーテンに映っていた人影が消えた。
 一体どこから来て、どこに去っていくんだろう。呉の二人は本当に不思議だ。
 口調こそは丁寧だけど、皇帝様に対して、すごくハッキリ意見していたし。

「呉の方と豪龍様は、特別親しいのですか?」
「幼少の頃からの付き合いゆえ、稀にずけずけとものを言いよる、ミハイロほどではないがな……あやつは唯一、俺が自分で決めた側近ゆえ」

 豪龍様は、育ちや人種に関係なく、気に入った人はそばに置く主義みたい。
 だから髪や瞳の色が違うあたしにも、こうやって優しくしてくれるんだ。
 固定概念に囚われない豪龍様は、きっと他の人より視野が広い。
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