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第三章、夜伽ってなんだろう。
十五
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「ピケ様が夜伽をお受けになると決められたなら、私どもからこれ以上、言うことはありません」
「そうと決まれば、こんなところにいられないわっ、ねぇ、雹華、あの場所でいいわよねっ?」
「そうね、陛下が後宮を解体してしまわれたので、夜伽に使うのは……あそこしかないわ」
「きゃあっ、お召し物に続いて、あの部屋も使うことになるだなんて、嬉しくなっちゃうわー!」
「永久に使われないかと思っていたけれど、きちんと手入れしていた甲斐があったわね」
さっきまでの深刻な空気とは打って変わり、二人はずいぶん楽しそうだ。
あたしは疑問符を抱えたまま、二人に歩いてついていく。
そして到着したのは、なんとお城の外、大階段を降りた先にある、対になった建物の片方だった。
大階段を守るように左右の端に建ったお城は、あたしが壮に来てすぐに目にしたあの建物だ。三階建ての竜宮城みたいなやつ。皇帝様が住むお城に比べれば小さいけど、十分立派な建物だ。
呉の二人について、あたしがそこに入ろうとした時、もう片方のお城から、人が出てくるのが見えた。
ひらひらした色鮮やかな服を着てる。お城に仕えている呉の二人や、ミハイロさんたちよりも、あたしの服装に近い感じだ。
大階段の幅だけ距離があるけど、直線上だから視界に入る。
それは向こうも同じだったらしく、遠巻きに目が合った。
するとその人が、あたしにギロリと睨みを利かせた――気がした。
さすがにこの距離からは、目の変化まで細かく読み取れない。
それでもそんな気がしたのは、離れていても感じ取れる、異様なオーラだった。
「……あの、雹華さん、雷華さん」
「はい? どうされましたか」
「あちらの、あの人たちは……?」
あたしに声をかけられた二人は、お城の出入口で立ち止まると、こちらを振り向いた。
そしてあたしの視線を追って、その先にいた人物を見つけると、すっと冷たい顔をした。
「……ピケ様は知らなくて大丈夫です」
「なるべく壮国の事情に巻き込みたくないですからねー」
二人があたしの方に視線を戻した時、あちらのお城から、もう一人出てくるのが見えた。
黒髪で背の高い、青い衣装を着た男の人。顔は見えないけど、後ろ姿が皇帝様に似てる。
その人に付き添われながら、先に出てきた女性も違う方向に去っていった。
呉の二人の意味深な発言は気になったけど、今はそれよりも重大なことが待っているから、それ以上は追求しなかった。
案内された部屋は、赤を基調とした広くて豪華な空間だった。
あたしが昨夜寝泊まりした部屋よりも、ずっと贅沢な場所で夜伽の準備に入る。
ピンク色の桃や、オレンジ色の杏など、果汁がしたたる甘い木の実を、たくさん食べるように言われた。
お風呂は驚くほど綺麗だった。今朝入った大浴場より広さはないけど、壁にも床にも金箔が散りばめられていて、すべてがピカピカだ。
雹華さんが髪を、雷華さんが身体を洗ってくれた。
中央を陣取るまぁるい湯船には、さっき食べた果物のような色の花びらがたっぷり浮かんでいた。
あたしは花びらに埋まるように、ゆっくりとお湯に浸かった。
蒸せるような花と果物の匂い。頭がぼんやりするくらい甘くて、自分が花や果物になったみたいだ。
あたしがそうしているうちに、どんどん日は暮れてゆく。
そしてついに、夜伽の時を迎えた。
「そうと決まれば、こんなところにいられないわっ、ねぇ、雹華、あの場所でいいわよねっ?」
「そうね、陛下が後宮を解体してしまわれたので、夜伽に使うのは……あそこしかないわ」
「きゃあっ、お召し物に続いて、あの部屋も使うことになるだなんて、嬉しくなっちゃうわー!」
「永久に使われないかと思っていたけれど、きちんと手入れしていた甲斐があったわね」
さっきまでの深刻な空気とは打って変わり、二人はずいぶん楽しそうだ。
あたしは疑問符を抱えたまま、二人に歩いてついていく。
そして到着したのは、なんとお城の外、大階段を降りた先にある、対になった建物の片方だった。
大階段を守るように左右の端に建ったお城は、あたしが壮に来てすぐに目にしたあの建物だ。三階建ての竜宮城みたいなやつ。皇帝様が住むお城に比べれば小さいけど、十分立派な建物だ。
呉の二人について、あたしがそこに入ろうとした時、もう片方のお城から、人が出てくるのが見えた。
ひらひらした色鮮やかな服を着てる。お城に仕えている呉の二人や、ミハイロさんたちよりも、あたしの服装に近い感じだ。
大階段の幅だけ距離があるけど、直線上だから視界に入る。
それは向こうも同じだったらしく、遠巻きに目が合った。
するとその人が、あたしにギロリと睨みを利かせた――気がした。
さすがにこの距離からは、目の変化まで細かく読み取れない。
それでもそんな気がしたのは、離れていても感じ取れる、異様なオーラだった。
「……あの、雹華さん、雷華さん」
「はい? どうされましたか」
「あちらの、あの人たちは……?」
あたしに声をかけられた二人は、お城の出入口で立ち止まると、こちらを振り向いた。
そしてあたしの視線を追って、その先にいた人物を見つけると、すっと冷たい顔をした。
「……ピケ様は知らなくて大丈夫です」
「なるべく壮国の事情に巻き込みたくないですからねー」
二人があたしの方に視線を戻した時、あちらのお城から、もう一人出てくるのが見えた。
黒髪で背の高い、青い衣装を着た男の人。顔は見えないけど、後ろ姿が皇帝様に似てる。
その人に付き添われながら、先に出てきた女性も違う方向に去っていった。
呉の二人の意味深な発言は気になったけど、今はそれよりも重大なことが待っているから、それ以上は追求しなかった。
案内された部屋は、赤を基調とした広くて豪華な空間だった。
あたしが昨夜寝泊まりした部屋よりも、ずっと贅沢な場所で夜伽の準備に入る。
ピンク色の桃や、オレンジ色の杏など、果汁がしたたる甘い木の実を、たくさん食べるように言われた。
お風呂は驚くほど綺麗だった。今朝入った大浴場より広さはないけど、壁にも床にも金箔が散りばめられていて、すべてがピカピカだ。
雹華さんが髪を、雷華さんが身体を洗ってくれた。
中央を陣取るまぁるい湯船には、さっき食べた果物のような色の花びらがたっぷり浮かんでいた。
あたしは花びらに埋まるように、ゆっくりとお湯に浸かった。
蒸せるような花と果物の匂い。頭がぼんやりするくらい甘くて、自分が花や果物になったみたいだ。
あたしがそうしているうちに、どんどん日は暮れてゆく。
そしてついに、夜伽の時を迎えた。
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