皇帝癒し人~殺される覚悟で来たのに溺愛されています~

碧野葉菜

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第二章、お近づきの朝食

十一

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「そうなんですね、ではこの鶏はアヒル……」
「ああ、俺がそこの森で獲ってきたものだ」
「えぇっ!? そうなんですか、すごいですね!」

 思わず大きな声を出してしまった。
 だって皇帝様が、ビックリさせるようなことを言うものだから。
 そしたら皇帝様は、右手拳を口元に当てた。一瞬あたしから目を逸らして、咳払いでもするのかと思ったけど違うみたい。
 クッて、ちょっと空気が漏れるみたいな音。
 もしかして、笑われちゃったかな。

「……冗談だ」
「え、えぇ……!?」

 まさか、皇帝様が冗談を言うなんて思わなかった。

「北京ダックに使われているのはその辺のアヒルではない。きちんと食用として育てられた鶏だ」

 まんまと引っかかったあたしだけど、皇帝様はあきれるでもバカにするでもなく、きちんと本当のことを話してくれた。

「そうなんですか、皇帝様はいろんなことをご存知なんですね」
「それにアヒルなど捕まえられてもすごくはない。鷹狩りの方が、よほどやり甲斐がある」
「鷹……強くておっきい鳥ですよね」
「ああ、ユニにもおるか?」
「はい、遠くから見たことがあるくらいですが……皇帝様は鷹を捕まえられるんですか?」
「弓があれば造作もない」
「皇帝様は、弓もお上手なんですね」
「当然であろう、俺にできぬことはない」

 皇帝様の言葉に、ほうってため息をついてしまう。
 自分にできないことはないって、あたしには一生縁のない言葉だ。
 ううん、きっとあたしだけじゃない。
 こんな台詞をあっさり使えて、似合ってしまう人なんてそうはいないだろう。
 空高く飛ぶ鳥を射抜くなんて、皇帝様はきっとすごく腕がいい。
 力強くて、手先が器用。
 だから、料理の食べ方も上手なのかな。
 皇帝様は、左手でバオビンってやつを手に取って、右手で箸を持ち、食材を挟む。
 丁寧な箸使いで、バオビンに運ばれてく野菜、パリパリになったアヒルの皮。
 ちょうどいい量の具材がのると、皇帝様は箸を置いて、くるっと両手でバオビンを丸める。
 そしてその先を、小皿に入った黒いタレにつけて、口に持っていく。
 音はしない。離れてるっていうのもあるけど、口を開けて食べないからだ。
 口の周りも綺麗。具材を落とさない。
 これって当たり前?
 こんなことで緊張するあたしが変なのかな。
 料理を作るのは慣れてるけど、食べるのはあまり慣れてない。
 思わずそのままかぶりつきたくなるけど、それはダメだ。
 学のないあたしでもわかる、汚い食べ方はここに相応しくない。
 なにより皇帝様みたいに綺麗に食べたくて、あたしは皇帝様の動きをじっと観察する。
 北京ダックを食べる皇帝様を、チラチラ目で追いながら、ああして、こうしてって、真似をする。
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