26 / 104
第二章、お近づきの朝食
十一
しおりを挟む
「そうなんですね、ではこの鶏はアヒル……」
「ああ、俺がそこの森で獲ってきたものだ」
「えぇっ!? そうなんですか、すごいですね!」
思わず大きな声を出してしまった。
だって皇帝様が、ビックリさせるようなことを言うものだから。
そしたら皇帝様は、右手拳を口元に当てた。一瞬あたしから目を逸らして、咳払いでもするのかと思ったけど違うみたい。
クッて、ちょっと空気が漏れるみたいな音。
もしかして、笑われちゃったかな。
「……冗談だ」
「え、えぇ……!?」
まさか、皇帝様が冗談を言うなんて思わなかった。
「北京ダックに使われているのはその辺のアヒルではない。きちんと食用として育てられた鶏だ」
まんまと引っかかったあたしだけど、皇帝様はあきれるでもバカにするでもなく、きちんと本当のことを話してくれた。
「そうなんですか、皇帝様はいろんなことをご存知なんですね」
「それにアヒルなど捕まえられてもすごくはない。鷹狩りの方が、よほどやり甲斐がある」
「鷹……強くておっきい鳥ですよね」
「ああ、ユニにもおるか?」
「はい、遠くから見たことがあるくらいですが……皇帝様は鷹を捕まえられるんですか?」
「弓があれば造作もない」
「皇帝様は、弓もお上手なんですね」
「当然であろう、俺にできぬことはない」
皇帝様の言葉に、ほうってため息をついてしまう。
自分にできないことはないって、あたしには一生縁のない言葉だ。
ううん、きっとあたしだけじゃない。
こんな台詞をあっさり使えて、似合ってしまう人なんてそうはいないだろう。
空高く飛ぶ鳥を射抜くなんて、皇帝様はきっとすごく腕がいい。
力強くて、手先が器用。
だから、料理の食べ方も上手なのかな。
皇帝様は、左手でバオビンってやつを手に取って、右手で箸を持ち、食材を挟む。
丁寧な箸使いで、バオビンに運ばれてく野菜、パリパリになったアヒルの皮。
ちょうどいい量の具材がのると、皇帝様は箸を置いて、くるっと両手でバオビンを丸める。
そしてその先を、小皿に入った黒いタレにつけて、口に持っていく。
音はしない。離れてるっていうのもあるけど、口を開けて食べないからだ。
口の周りも綺麗。具材を落とさない。
これって当たり前?
こんなことで緊張するあたしが変なのかな。
料理を作るのは慣れてるけど、食べるのはあまり慣れてない。
思わずそのままかぶりつきたくなるけど、それはダメだ。
学のないあたしでもわかる、汚い食べ方はここに相応しくない。
なにより皇帝様みたいに綺麗に食べたくて、あたしは皇帝様の動きをじっと観察する。
北京ダックを食べる皇帝様を、チラチラ目で追いながら、ああして、こうしてって、真似をする。
「ああ、俺がそこの森で獲ってきたものだ」
「えぇっ!? そうなんですか、すごいですね!」
思わず大きな声を出してしまった。
だって皇帝様が、ビックリさせるようなことを言うものだから。
そしたら皇帝様は、右手拳を口元に当てた。一瞬あたしから目を逸らして、咳払いでもするのかと思ったけど違うみたい。
クッて、ちょっと空気が漏れるみたいな音。
もしかして、笑われちゃったかな。
「……冗談だ」
「え、えぇ……!?」
まさか、皇帝様が冗談を言うなんて思わなかった。
「北京ダックに使われているのはその辺のアヒルではない。きちんと食用として育てられた鶏だ」
まんまと引っかかったあたしだけど、皇帝様はあきれるでもバカにするでもなく、きちんと本当のことを話してくれた。
「そうなんですか、皇帝様はいろんなことをご存知なんですね」
「それにアヒルなど捕まえられてもすごくはない。鷹狩りの方が、よほどやり甲斐がある」
「鷹……強くておっきい鳥ですよね」
「ああ、ユニにもおるか?」
「はい、遠くから見たことがあるくらいですが……皇帝様は鷹を捕まえられるんですか?」
「弓があれば造作もない」
「皇帝様は、弓もお上手なんですね」
「当然であろう、俺にできぬことはない」
皇帝様の言葉に、ほうってため息をついてしまう。
自分にできないことはないって、あたしには一生縁のない言葉だ。
ううん、きっとあたしだけじゃない。
こんな台詞をあっさり使えて、似合ってしまう人なんてそうはいないだろう。
空高く飛ぶ鳥を射抜くなんて、皇帝様はきっとすごく腕がいい。
力強くて、手先が器用。
だから、料理の食べ方も上手なのかな。
皇帝様は、左手でバオビンってやつを手に取って、右手で箸を持ち、食材を挟む。
丁寧な箸使いで、バオビンに運ばれてく野菜、パリパリになったアヒルの皮。
ちょうどいい量の具材がのると、皇帝様は箸を置いて、くるっと両手でバオビンを丸める。
そしてその先を、小皿に入った黒いタレにつけて、口に持っていく。
音はしない。離れてるっていうのもあるけど、口を開けて食べないからだ。
口の周りも綺麗。具材を落とさない。
これって当たり前?
こんなことで緊張するあたしが変なのかな。
料理を作るのは慣れてるけど、食べるのはあまり慣れてない。
思わずそのままかぶりつきたくなるけど、それはダメだ。
学のないあたしでもわかる、汚い食べ方はここに相応しくない。
なにより皇帝様みたいに綺麗に食べたくて、あたしは皇帝様の動きをじっと観察する。
北京ダックを食べる皇帝様を、チラチラ目で追いながら、ああして、こうしてって、真似をする。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
隣の家に住むイクメンの正体は龍神様でした~社無しの神とちびっ子神使候補たち
鳴澤うた
キャラ文芸
失恋にストーカー。
心身ともにボロボロになった姉崎菜緒は、とうとう道端で倒れるように寝てしまって……。
悪夢にうなされる菜緒を夢の中で救ってくれたのはなんとお隣のイクメン、藤村辰巳だった。
辰巳と辰巳が世話する子供たちとなんだかんだと交流を深めていくけれど、子供たちはどこか不可思議だ。
それもそのはず、人の姿をとっているけれど辰巳も子供たちも人じゃない。
社を持たない龍神様とこれから神使となるため勉強中の動物たちだったのだ!
食に対し、こだわりの強い辰巳に神使候補の子供たちや見守っている神様たちはご不満で、今の現状を打破しようと菜緒を仲間に入れようと画策していて……
神様と作る二十四節気ごはんを召し上がれ!
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
生贄巫女はあやかし旦那様を溺愛します
桜桃-サクランボ-
恋愛
人身御供(ひとみごくう)は、人間を神への生贄とすること。
天魔神社の跡取り巫女の私、天魔華鈴(てんまかりん)は、今年の人身御供の生贄に選ばれた。
昔から続く儀式を、どうせ、いない神に対して行う。
私で最後、そうなるだろう。
親戚達も信じていない、神のために、私は命をささげる。
人身御供と言う口実で、厄介払いをされる。そのために。
親に捨てられ、親戚に捨てられて。
もう、誰も私を求めてはいない。
そう思っていたのに――……
『ぬし、一つ、我の願いを叶えてはくれぬか?』
『え、九尾の狐の、願い?』
『そうだ。ぬし、我の嫁となれ』
もう、全てを諦めた私目の前に現れたのは、顔を黒く、四角い布で顔を隠した、一人の九尾の狐でした。
※カクヨム・なろうでも公開中!
※表紙、挿絵:あニキさん
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる