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第二章、お近づきの朝食

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「あ、あの、あたしに簡単な、挨拶の仕方だけでも教えてもらえませんか? あたし、本当になにも知らなくて」

 急いでお願いすると、呉の二人は顎に手を当てて思案する。
 バカなあたしでも今すぐにできる、簡単なご機嫌取りだけでも覚えたかった。

「うーん、そうですね……なら、衣装の裾を広げて、軽くお辞儀をして」
「挨拶は、皇帝陛下、ご機嫌麗しゅう――」

 厚みのある女性らしい唇が、突然ピタリと動きを止めた。
 音はしなかった。だけど空気が変わる。
 ピリリと緊張の糸が張ったみたい。
 雹華さんと雷華さんを始め、食事の準備をしている人たちも、みんな背筋を伸ばしてピシッとお辞儀をした。
 あたしはみんなが頭を下げる方向を見て、ようやくハッキリ状況を飲み込む。
 青い壁に溶け込んだような扉の前に、すらっと背の高い男の人が立っていた。
 光沢のある青い衣装に、金色の龍がめいっぱい刺繍されている。引き締まった腰の帯には、黒い鞘の長い剣。
 他の人たちとは全然違う。
 格好も違うけど、なんていうんだろう……纏う空気の重さとか、存在感の強さとか、怖いのに惹き込まれるみたいな、不思議な感じ。

「下がれ、呉……余計なことを吹き込むでない」

 昨夜、聞いた声と同じだ。
 低くて透明感のある声。
 皇帝様はそう言うと、ゆっくりと床を踏みしめて前進する。
 昨夜は下ろしていた髪が、今は後ろの高い位置で結われている。
 皇帝様が歩く度に、空気に靡いて揺れる、艶やかな馬の尻尾のよう。
 皇帝様が立ち止まったのは、長いテーブルの一番端だった。
 そこでチラリとあたしの方を見る。
 昨夜と同じ、真っ白な仮面をつけてるけど、口までは覆われていないから、食事には問題なさそう。
 
「あまりに見窄らしい身なりであったが、少しは見られるようになったか」

 室内が静かだから、皇帝様の言葉がよく聞こえた。
 やっぱり、あたしの見た目が汚くて、見ていられなかったから、皇帝様が気を回してくださったんだ。
 こんなに偉い人に気を使わせてしまうなんて、恥ずかしくて申し訳なくて、穴に埋まりたくなった。
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