皇帝癒し人~殺される覚悟で来たのに溺愛されています~

碧野葉菜

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第二章、お近づきの朝食

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「いえ、おわかりでないなら、全然、そのままで大丈夫です!」
「そうですね、ピケ様にはただお召し物としてお使いいただければ、それで」

 あたしはうんうんと頷く二人から、姿見に視線を戻す。
 見れば見るほど美しい衣装で、あたしに着こなせるとは思えない。
 もっと大人っぽくてスタイルのいい女性が着れば、色っぽくて映えるのだろうけど。
 
「……でも、こんないいものを、本当にあたしなんかが着てしまっていいんでしょうか」
「いいのですよ、陛下の指示ですから、文句を言う者はおりません」
「そうだ、せっかくなので、髪も結って差し上げましょうねーぇ」

 こんなことまでしてもらっていいのかなって、戸惑っているうちに綺麗に髪をセットされる。
 二人はあたしの胸まである髪を二つに分けて、高い位置で丸く結った。
 あれ、この髪型って……。

「ふふっ、あたしたちとお揃いですよーぉ」
「ですが、ピケ様は後れ毛をたっぷり垂らしておきましょう」
「そうね、その方が女性らしくていいわぁ」
「毛先がクルクルされているので、見栄えもよいです」

 二人は楽しそうに、あたしの髪型を作ってくれる。
 緩く波打ったような癖のある髪が、初めて褒められた気がした。
 仕上げに、片方のお団子の下に、花の模様が入った濃い紅色の髪留めもつけてくれた。どれを見ても高そうで、傷つけたらどうしようと心配になる。

「さーて、それでは、朝食に向かいましょう」
「朝食……?」
「はい、私たちについて来てください。少々骨が折れますが」
「えっ!? ほ、骨が折れるんですか!?」

 あたしの反応に、雷華さんがあははっと笑った。たぶん雷華さんの方だと思う。こんなに表情豊かなのは。

「やだーぁ、ものの例えですよ、ちょっと苦労しますよとか、面倒ですよって意味です」
「本当に骨が折れるわけではありませんので、ご心配なく」

 こんなこともわからないなんて、あたしは言葉を知らなすぎる。
 恥ずかしくなって肩を縮め、ペコリと頭を下げた。

「そ、そうでしたか、変なこと言ってごめんなさい」

 この無知を埋める方法はないだろうか。
 もっとちゃんと、会話の中身を理解できるようになりたい。
 そんなことを考えながら、二人の背中を見て階段を上がっていると、ひらひらした裾を踏んづけて転びそうになった。
 慌てて助けてくれた二人に手を引かれ、なんとか階段を上る。
 見た目は綺麗だけど、動きにくくてちょっと困る。
 雹華さんや雷華さん、歩いている間にすれ違った人たちとも違う。
 みんな下は袴だけど、ここまで裾が長くないし、上の部分の袖は腕にピッタリ添っている。
 さっき二人は、ソクシツ用の服って言ってたけど、きっとソクシツって役割の人たちは、忙しく働いたり、戦ったりもしないんだろうな。
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