上 下
20 / 27
第二章、お近づきの朝食

しおりを挟む
「いえ、おわかりでないなら、全然、そのままで大丈夫です!」
「そうですね、ピケ様にはただお召し物としてお使いいただければ、それで」

 あたしはうんうんと頷く二人から、姿見に視線を戻す。
 見れば見るほど美しい衣装で、あたしに着こなせるとは思えない。
 もっと大人っぽくてスタイルのいい女性が着れば、色っぽくて映えるのだろうけど。
 
「……でも、こんないいものを、本当にあたしなんかが着てしまっていいんでしょうか」
「いいのですよ、陛下の指示ですから、文句を言う者はおりません」
「そうだ、せっかくなので、髪も結って差し上げましょうねーぇ」

 こんなことまでしてもらっていいのかなって、戸惑っているうちに綺麗に髪をセットされる。
 二人はあたしの胸まである髪を二つに分けて、高い位置で丸く結った。
 あれ、この髪型って……。

「ふふっ、あたしたちとお揃いですよーぉ」
「ですが、ピケ様は後れ毛をたっぷり垂らしておきましょう」
「そうね、その方が女性らしくていいわぁ」
「毛先がクルクルされているので、見栄えもよいです」

 二人は楽しそうに、あたしの髪型を作ってくれる。
 緩く波打ったような癖のある髪が、初めて褒められた気がした。
 仕上げに、片方のお団子の下に、花の模様が入った濃い紅色の髪留めもつけてくれた。どれを見ても高そうで、傷つけたらどうしようと心配になる。

「さーて、それでは、朝食に向かいましょう」
「朝食……?」
「はい、私たちについて来てください。少々骨が折れますが」
「えっ!? ほ、骨が折れるんですか!?」

 あたしの反応に、雷華さんがあははっと笑った。たぶん雷華さんの方だと思う。こんなに表情豊かなのは。

「やだーぁ、ものの例えですよ、ちょっと苦労しますよとか、面倒ですよって意味です」
「本当に骨が折れるわけではありませんので、ご心配なく」

 こんなこともわからないなんて、あたしは言葉を知らなすぎる。
 恥ずかしくなって肩を縮め、ペコリと頭を下げた。

「そ、そうでしたか、変なこと言ってごめんなさい」

 この無知を埋める方法はないだろうか。
 もっとちゃんと、会話の中身を理解できるようになりたい。
 そんなことを考えながら、二人の背中を見て階段を上がっていると、ひらひらした裾を踏んづけて転びそうになった。
 慌てて助けてくれた二人に手を引かれ、なんとか階段を上る。
 見た目は綺麗だけど、動きにくくてちょっと困る。
 雹華さんや雷華さん、歩いている間にすれ違った人たちとも違う。
 みんな下は袴だけど、ここまで裾が長くないし、上の部分の袖は腕にピッタリ添っている。
 さっき二人は、ソクシツ用の服って言ってたけど、きっとソクシツって役割の人たちは、忙しく働いたり、戦ったりもしないんだろうな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました

まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」 あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。 ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。 それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。 するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。 好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。 二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。

こんこん公主の後宮調査 ~彼女が幸せになる方法

朱音ゆうひ
キャラ文芸
紺紺(コンコン)は、亡国の公主で、半・妖狐。 不憫な身の上を保護してくれた文通相手「白家の公子・霞幽(カユウ)」のおかげで難関試験に合格し、宮廷術師になった。それも、護国の英雄と認められた皇帝直属の「九術師」で、序列は一位。 そんな彼女に任務が下る。 「後宮の妃の中に、人間になりすまして悪事を企む妖狐がいる。序列三位の『先見の公子』と一緒に後宮を調査せよ」 失敗したらみんな死んじゃう!? 紺紺は正体を隠し、後宮に潜入することにした! ワケアリでミステリアスな無感情公子と、不憫だけど前向きに頑張る侍女娘(実は強い)のお話です。 ※別サイトにも投稿しています(https://kakuyomu.jp/works/16818093073133522278)

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

諦めて溺愛されてください~皇帝陛下の湯たんぽ係やってます~

七瀬京
キャラ文芸
庶民中の庶民、王宮の洗濯係のリリアは、ある日皇帝陛下の『湯たんぽ』係に任命される。 冷酷無比極まりないと評判の皇帝陛下と毎晩同衾するだけの簡単なお仕事だが、皇帝陛下は妙にリリアを気に入ってしまい……??

後宮の記録女官は真実を記す

悠井すみれ
キャラ文芸
【第7回キャラ文大賞参加作品です。お楽しみいただけましたら投票お願いいたします。】 中華後宮を舞台にしたライトな謎解きものです。全16話。 「──嫌、でございます」  男装の女官・碧燿《へきよう》は、皇帝・藍熾《らんし》の命令を即座に断った。  彼女は後宮の記録を司る彤史《とうし》。何ものにも屈さず真実を記すのが務めだというのに、藍熾はこともあろうに彼女に妃の夜伽の記録を偽れと命じたのだ。職務に忠実に真実を求め、かつ権力者を嫌う碧燿。どこまでも傲慢に強引に我が意を通そうとする藍熾。相性最悪のふたりは反発し合うが──

処理中です...