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第一章、初めて会った日

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「醜いであろう」

 皇帝様の言葉にハッとして、目の前の痣を改めて見る。
 健康的な色の肌と、筋肉質な身体に巣食ったそれは、邪悪なようで、神秘的にも感じる。

「醜いとは思いません、だけど痛そうで……大丈夫ですか?」
「……大丈夫ではないゆえ、貴様ら民に声をかけたのだろう」
「そっ、そうですよね、ごめ……申し訳ありませむ」

 確かにその通りだ。
 トンチンカンなことを言ってしまった。

「医者にかかっても、薬をしても治まらぬ、それどころか日に日に悪化してくる始末だ」
「いつからで……」
「もう半年ほどになる」
「痛みは?」
「大したことはない、稀にズキリとするくらいだ」

 皇帝様はそう言うけど、この痣を見る限り、とても痛そうだ。もしかしたら、我慢強い人なのかもしれない。
 そう思いながら、そっと両手を近づける。
 癒しの力は、触れることで発動する。
 目を閉じて、心を集中させて、念じる。
 そうしたら、傷や病を治す光が、手から溢れるんだけど――。

「……どうした、もう終わったのか?」
「あ、いえ、もう少し待ってください」

 やっぱり発動しない。
 都合よく今、力が目覚めるわけもなかった。
 両手が震えて、嫌な汗が出てくる。
 お願いだから、光、出て。
 癒しの力で、この痣を消して。
 必死に心で唱えながら、皇帝様の肌に手のひらを寄せるけど、なにも変化はない。
 このままじゃいけない。
 なにか、上手く切り抜ける方法を考えなきゃ。

「……す、少し今、調子が悪い、みたいで」

 結局あたしの口から出たのは、子供騙しの言い訳。
 今度こそ、首を刎ねられても不思議じゃない。
 こめかみに滲む汗が、つうっと頬を伝った。

「そうか、長旅であったしな、よい、今宵は休め」

 沈黙を破った言葉に、あたしはポカンと口を開けた。

「……え……」
「聞こえなかったか、静養せよと申しておる」

 そう言いながら、はだけた衣装を整える皇帝様。
 生首が床に転がる想像をしていたあたしは、ずいぶん優しい対応に、拍子抜けした。
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