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薔薇の耽血

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「――美汪!」

 元気な声でそう呼べば、見惚れる姿勢で先を歩く彼が、立ち止まって少し振り返る。

 …………美汪はまだ、ここにいる。
 もう、この美しい雪国から立ち去ることはないだろう。

 温かな風に揺らめく桜並木の中、穏花は美汪に追いついた。

 穏花の淡茶色の髪が、春の柔らかな陽射しを受け優しく煌く。

 陽だまりのように温かで、穏やかな時間。
 静かに向かい合っていると、不意に美汪が姿勢を低くし、穏花に顔を近づけた。

 すると、思わず目を瞑った穏花に、美汪は少しからかうような口ぶりで言った。

「……何期待してるの?」
「――へ?」
「花弁を取るためなんだけど」
「……あっ、あぁああ、は、花弁!? そ、そうなんだぁ!?」

 てっきり口づけられると思った穏花は、恥ずかしい勘違いに顔を真っ赤にして両手をばたつかせた。
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