128 / 142
薔薇の耽血
8
しおりを挟む
穏花はあれから美汪に一週間、家にこもり外出は控えろと言われたため、それに従い学校を休んでいた。
一週間、一枚も花弁を吐かないなら、恐らく棘病が完治したと言える、と。正確な結果を得るため、治療後は他の感染症にかからないよう、室内で安静にという意味だった。
穏花は毎日祈るような気持ちで過ごし、ついにその一週間後を迎えた。
十二月に入り、冬が濃くなった雪降る朝、穏花はすっきりとした頭で目覚めた。
棘病を患ってから、体調が不安定で、花を吐かなくても何か胸につっかえがあるような、気分がよくなく、だるいことが頻繁に起きていた。
しかし今朝はその重さが嘘のように、身体が軽かったのだ。
まるで自分の中にあった悪い何かが、綺麗さっぱり消え失せたような――。
穏花はベッドから飛び起きると、丸い手鏡を持ち、そこに映った顔をまじまじと見つめた。
顔色もいい。体調がすこぶるいい。
一週間、花の欠片すら吐かなかった。
「…………なお、った……?」
穏花は信じられない気持ちで、喜びに打ち震えた。
そして鏡を放り出す勢いで両手を上げると、その場に何度もジャンプした。
「――やった……ぃやったあああああ!!」
下の階から何事かと、従姉妹の双子から「どうしたの、穏花お姉ちゃんうるさーい!」と注意の声が飛んできた。
しかし、そんな言葉は今の穏花の耳には入らない。
末期の薔薇の症状に、てっきりもう助からないと思い込んでいた穏花は、この喜びを伝えたくて仕方がなかった。
もちろん、相手は彼しかいない。
一週間、一枚も花弁を吐かないなら、恐らく棘病が完治したと言える、と。正確な結果を得るため、治療後は他の感染症にかからないよう、室内で安静にという意味だった。
穏花は毎日祈るような気持ちで過ごし、ついにその一週間後を迎えた。
十二月に入り、冬が濃くなった雪降る朝、穏花はすっきりとした頭で目覚めた。
棘病を患ってから、体調が不安定で、花を吐かなくても何か胸につっかえがあるような、気分がよくなく、だるいことが頻繁に起きていた。
しかし今朝はその重さが嘘のように、身体が軽かったのだ。
まるで自分の中にあった悪い何かが、綺麗さっぱり消え失せたような――。
穏花はベッドから飛び起きると、丸い手鏡を持ち、そこに映った顔をまじまじと見つめた。
顔色もいい。体調がすこぶるいい。
一週間、花の欠片すら吐かなかった。
「…………なお、った……?」
穏花は信じられない気持ちで、喜びに打ち震えた。
そして鏡を放り出す勢いで両手を上げると、その場に何度もジャンプした。
「――やった……ぃやったあああああ!!」
下の階から何事かと、従姉妹の双子から「どうしたの、穏花お姉ちゃんうるさーい!」と注意の声が飛んできた。
しかし、そんな言葉は今の穏花の耳には入らない。
末期の薔薇の症状に、てっきりもう助からないと思い込んでいた穏花は、この喜びを伝えたくて仕方がなかった。
もちろん、相手は彼しかいない。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
猫の罪深い料理店~迷子さんの拠り所~
碧野葉菜
キャラ文芸
アラサー真っ只中の隅田川千鶴は仕事に生きるキャリアウーマン。課長に昇進しできない男たちを顎で使う日々を送っていた。そんなある日、仕事帰りに奇妙な光に気づいた千鶴は誘われるように料理店に入る。
しかしそこは、普通の店ではなかった――。
麗しの店主、はぐれものの猫宮と、それを取り囲む十二支たち。
彼らを通して触れる、人と人の繋がり。
母親との確執を経て、千鶴が選ぶ道は――。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる