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薔薇の耽血

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 “普通”ではない、恐らく正しくはない被虐の悦に目覚めようとしている穏花が、美汪には愛おしくて愛おしくてならなかった。

「……ね、美汪、は、私のこと、どう思ってるの……?」

 言葉より大事なものがあるのは理解していても、やはり口にして伝えてほしいと願ってしまう穏花に、美汪は傷から唇を離すと、小さな子のように知らんぷりをした。

「どうだろうね」
「えっ……き、聞きたい」
「一生、教えてあげない」

 そう言った美汪は意地悪くも幸福そうに微笑んでいて、穏花は胸が締めつけられた。
 
 ――美汪が、美汪じゃないみたい、どうして今日は、そんなに笑ってくれるの――?

 例え想いが重なったところで、この世で人として認められていない自身と結ばれて、一体穏花になんの利点があるのだろうと、美汪は考えていた。
 だから美汪は、この気持ちは一生伝えないと決めた。決定的な告白は、穏花を縛りつけるだけだと思った。
 
 美汪の長い両腕が伸びてきたかと思うと、それは穏花の身体を包み込むように優しく抱き上げた。
 いつの間にか開け放たれた窓から冷たい空気が吹き込み、美汪は穏花を抱いたまま、その中へ飛び込んだ。

 星は見えず、月だけが異様に存在を主張した夜空。それに溶け込むように、音もなくしなりを繰り返す艶やかな黒羽こくう
 穏花は夢でも見ているようだった。
 キラキラとしたお星様やパステルカラーのお城なんかなくても、美汪は穏花にとってどんな童話に出てくる白馬の王子様より魅力的だった。
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