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あふれる想い

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 美汪は、自分の耳を疑った。
 最大限目を見開き、言語を忘れ、立ち尽くしていた。

 ――今、一体なんと言ったのか?
 自身の都合のいい台詞に変換してしまっただけなのではと、信じられなかった。

 しかし、自らを見上げる穏花の顔が、徐々に朱を帯びていく様に、ようやく事実に理解が及んだ。

 ――圭太あいつが好きだったんじゃないのか?
 僕の側にいるのは、病を食い止めたかったからじゃないのか?
 聞きたいことは山ほどあったが、うまく声にできなかった。

「あ、い、いきなり、こんなこと言って、迷惑だったら、ごめん」

 時が止まったように微動だにしない美汪に不安になった穏花だったが、もう、一度溢れてしまった想いは、止めることができない。

「でも私、本当に、美汪が好きで、好きで好きで、我慢できなくて、言わずにいられなくて」

 美汪にとって奇跡のような言葉を惜しみなく伝える穏花に、目眩を覚えた美汪は、力なく膝をたたみ座り込んでしまった。

「……もう、いい、言わなくて」
「ご、ごめん、嫌だった!? でもどうしても伝えたくて」
「……聞くに、耐え、な、い」

 片手で顔を覆った美汪の、隠しきれない耳が赤く見えたのは、きっと穏花の気のせいではなかった。
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