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あふれる想い

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「……穏花、ごめん、謝っても許されることじゃねえけど、本当に、ごめん……! どうか、してた」

 圭太は穏花を方を向き、両掌を地面につけ頭を下げ、滝の様な涙を流しながら謝罪をした。
 それを見た穏花は、少し安心したように笑みを漏らすと、「ううん」と小さく首を横に振って応えた。

「く、黒川も、ごめ」
「汚い泣き顔晒さないでくれる? さっさと消えなよ、僕の手が今にも君をあやめそうだ」

 冷たく言い放つ美汪の瞳に本来の紅を見た気がした圭太は、身の毛もよだつ思いでよろよろと立ち上がると、後ろ髪引かれる様子でその場を離れた。 

「……おい、あんた!」

 忌々しい紫の目と、不揃いな牙をそのままに、おぼつかない足取りで公園の噴水まで歩いた圭太は、背後からかかった声に振り向いた。

 そこには双子の彼らが立っていた。
 アベルとヨハンは、圭太の後を追って来ていた。

「血が欲しくてたまらなくなる、禁断症状は一週間ほどすれば治ると思うぜ」
「そこを越えたら、楽になって元の人の姿に戻れるはずだから」
「……そう、なのか?」
「混血の吸血化には個人差がありすぎる。俺たちの親は全然症状が出なかった。だからどうしたらいいかなんて、わからなかったんだ……あんたもたぶん、そうなんだろ?」

 アベルの言う通り、圭太の親も症状が出ないタイプだった。そのため自分の子供が吸血衝動に駆られても、何が正解なのか知らず、止めることもできなかったのだ。
 混血である故に、二人は圭太の気持ちが痛いほどわかった。

「やったことは許せないけど……辛い気持ちは、わかるから、がんばって」
「……ありがとう、二人とも……俺、耐えてみせるよ」

 この二人の存在は、圭太にとって大きな支えとなる。
 自身の苦しみを理解してくれる者がいることは、孤独からの脱却であった。
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