上 下
114 / 142
あふれる想い

34

しおりを挟む
「そうか、そうか、そうなんだな、本当にいたんだな、まさか、こんな近くに、はは……だからか、その人をひれ伏せさせる残虐な雰囲気、混血の俺たちにはないそれは、わかるぞ、俺は、知ってるぞ」

 狼狽しながら言葉を並べる圭太を、美汪は変わらず見下ろしたまま、穏花もその場から動けずにいた。
 やがて圭太は鬼の首を取ったかのように、美汪を指差して言いのける。

「純血はなあ、加虐嗜好が強いんだよなぁ!? それも嫌いな相手にならまだわかる、けどそうじゃねえ、好きな相手に対する非道だ! 要するに好きであればあるほど痛ぶって悦に入るど変態だ!! 聞いたか穏花!? こんな奴に尽くしてたら、いつ殺されるかわからねえぞ!」

 美汪は奥歯を噛みしめ、両手の拳を強く握った。
 いつか穏花に伝えなくてはと思っていたことだった。しかし自分の口からはとても言えなかった美汪は、穏花にあの書物を貸した。そこに記された内容で、彼女が知ってくれたならと微かな期待を込めていたのだ。
 完璧のように見える美汪の、唯一の欠点、弱味、恥部とも言える箇所を最も大切な人の前で暴露され、美汪は屈辱に黙り込むしかなかった。

 ――が、穏花は美汪とは正反対の思いだった。
 好きであるほどいじめる、それはつまり……

 ――美汪が、私にひどくするのは、私のことを嫌いなんじゃ、なくて――――?

 穏花の目の前は急に明るくなった。
 彼女が美汪に辛く当たられるのは、自分が無神経に彼を怒らせるようなことをするから、自分のことが嫌いだから、そう勘違いしていた。
 しかしその言動が好意から来るものだったなら、穏花はおかしなくらい、歓喜と安堵で満たされてしまった。
しおりを挟む

処理中です...