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あふれる想い
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圭太に誘われたのは、十二月を間近に控え、寒波が舞い込んだ日だった。
穏花は厚手のタイツにコーデュロイのショートパンツ、セーターを合わせ、白いコートを羽織ってムートンブーツを履いて出かけた。
家から十五分ほど歩けば、圭太と約束した敷地の広い公園がある。
年中緑の葉をつけている背の高い木々に囲まれたそこは、子供が遊ぶような遊具はなく、大人のランニングや犬の散歩などによく利用されていた。
しかし今は平日の午前十時。大人は仕事、子供は学校のため人はまったくいなかった。
穏花は公園内を見回し圭太を探しながら、中央にある噴水に向かった。
すると、その噴水の近くに置かれたベンチに、見覚えのある後ろ姿があった。
あの短めの明るい髪と、ラフな服装は圭太に違いなかった。
「圭太? もう来てたんだ、早かったんだね」
穏花は圭太が視界に入ると、すぐさま声をかけた。
しかし、圭太はベンチに座ったまま、何も反応を示さない。
聞こえなかったのかな? と思った穏花は、少し足を早めて圭太に近づいた。
ようやく穏花が圭太の前に辿り着いた時には、彼は顔を両手で覆い、俯いていた。
「……圭太、どうしたの? 圭太、だよね?
」
普段活発な彼とは思えないほど、今にも泣き出しそうな空と同じ陰鬱な空気を醸し出していた。
「……ああ、穏花、サンキュな、来てくれて、助かった」
何かおかしい、と穏花は思う。
その声は確かに聞き慣れたものではあったが――。
圭太が徐に頭を上げ、掌を外した時、その違和感の正体を知る。
穏花は厚手のタイツにコーデュロイのショートパンツ、セーターを合わせ、白いコートを羽織ってムートンブーツを履いて出かけた。
家から十五分ほど歩けば、圭太と約束した敷地の広い公園がある。
年中緑の葉をつけている背の高い木々に囲まれたそこは、子供が遊ぶような遊具はなく、大人のランニングや犬の散歩などによく利用されていた。
しかし今は平日の午前十時。大人は仕事、子供は学校のため人はまったくいなかった。
穏花は公園内を見回し圭太を探しながら、中央にある噴水に向かった。
すると、その噴水の近くに置かれたベンチに、見覚えのある後ろ姿があった。
あの短めの明るい髪と、ラフな服装は圭太に違いなかった。
「圭太? もう来てたんだ、早かったんだね」
穏花は圭太が視界に入ると、すぐさま声をかけた。
しかし、圭太はベンチに座ったまま、何も反応を示さない。
聞こえなかったのかな? と思った穏花は、少し足を早めて圭太に近づいた。
ようやく穏花が圭太の前に辿り着いた時には、彼は顔を両手で覆い、俯いていた。
「……圭太、どうしたの? 圭太、だよね?
」
普段活発な彼とは思えないほど、今にも泣き出しそうな空と同じ陰鬱な空気を醸し出していた。
「……ああ、穏花、サンキュな、来てくれて、助かった」
何かおかしい、と穏花は思う。
その声は確かに聞き慣れたものではあったが――。
圭太が徐に頭を上げ、掌を外した時、その違和感の正体を知る。
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