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あふれる想い

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「何が王域だ、何がなんでもできる力だ、ふざけるな……クソッ」

 珍しく声を荒げながら書物の山をなぎ倒すと、美汪の努力の証と言える大量の資料たちが一気に床に崩れ落ちた。
 すると、無造作に散乱する書物の中から、小さなメモ用紙のようなものが現れた。
 本のカバーに隠されていたらしい、滑るように床に着地したそれを目に留めた美汪は、訝しげな表情で拾い上げて見た。

「……薔薇の、耽血たんけつ?」

 経年劣化のせいか、黄ばみ、薄汚れた紙には、こう書かれてあった。

『“薔薇の耽血”……吸血族の特別な血を、そう名付けよう。ワタシの妻は棘病を患い、一月も経たず亡くなった。同じ苦しみを持つ者へ、役立てればと医師であるワタシの研究結果をここに記す。妻の遺体を解剖すると、なんと臓器はすべて薔薇の花弁と棘がついた蔓と化していた。そしてそこからかぐわしい香りがしたのだ。吸血族の血は花の香りがすると聞いたことがある。これはまさにそれと同じ香りではないか? ならば棘病を治す方法は、毒を持って毒を制するのと同じ、血を持って血を制するしかなかろう。だが“普通”のやり方ではいけない。純血の吸血族が“禁じ手”を使うことで“薔薇の耽血”は完成するはずだ。恐らくその方法は……』

 紙が破れていたため、それ以上続きを読み取ることはできなかった。
 ――しかし“薔薇の耽血”、“禁じ手”というキーワードに、美汪は突破口を見た。
 
 その時、締め切った扉を強く叩く音が響き、ハッとした美汪はそちらを見やった。

「美汪、美汪! 開けてくれよ! 俺たち、あの姉ちゃんのところに行ってきたんだ!」
「突然友達に呼び出されて公園に行ったんだけど、なんだか嫌な予感がするんだ!」

 急ぎ帰宅したアベルとヨハンの話に、美汪も大きな胸騒ぎを感じ部屋を出た。
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