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あふれる想い

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 穏花が側にいてくれるのは、棘病の進行を止め、生き延びたいから。それだけの理由なのに、何を期待していたのだろうと美汪は自身を呪った。
 それでも、穏花を求めている。
 暗闇に生きる自らには過ぎた光だとわかっているのに、追わずにはいられない。


「……穏花…………穏花、穏花、穏花穏花穏花穏花穏花穏花穏花穏花穏花穏花穏花――――……!!」


 掻きむしるように頭を抱え、もがき苦しむこの姿を、人と呼ばずして、なんと呼ぶのか。

 そしてこのように苦悩すること自体が、また美汪の美徳を侵していた。
 吸血族であることを、恨み始めていたからだ。
 一人残された自分だけでも誇り高く生きたいと思っているのに、好きな少女の命を救えないことが、悔しくてならなかったのだ。

 棘病を完治させる方法を探るべく、美汪はコーエンの研究結果や、古くから伝わる書物を片っ端から調べた。
 しかし、目立った成果は得られず、無力さを噛みしめるしかなかった。
 
 恐らくこれは一人だけ生き残ってしまった自身への罰なのかと思った。
 歳を取るスピードが異常に遅いのも、奇跡などという綺麗なものではなく、ありとあらゆる怨念が絡み合い成した呪縛なのだと。
 穏花と繋がりが持てると、彼女が棘病を患ったことを微塵でも喜んでしまった罰なのだと。

 美汪は潔癖すぎる信念を持つせいで、自身に地獄の門より重い十字架を課していた。
 だが、生きるとは孤独との戦いだろう。
 時には自分をかわいそうだと慰め、よくがんばっていると称賛し、苦しみを逃すことも必要ではないか。
 それができない美汪だからこそ、穏花の朗らかな空気と花のような笑顔に癒されるのだ。
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