薔薇の耽血（バラのたんけつ）

あふれる想い

25

　吸血族は情熱的な愛を貫く者が多い。
　その分“人間”たちからすれば、狂気じみて感じるような愛情表現もあった。

　自身の正体に気づいた穏花の、あの恐怖に慄き涙する顔は美汪の瞳にこの上なく耽美に映った。
　瞬間、美汪は理性を飛ばし、気づけば穏花の背中を蹴り潰し、激痛が走るようなひどい咬みつきをしていた。
　だがそれは、決して穏花が憎いからでも、嫌いだからでもなかった。
　可愛くて可愛くて、いじめたくて仕方がなくなったのだ。
　穏花の屈辱が始まったあの日、美汪の中では愛が始まっていた。

　「あなたの血しかいらない」
　吸血族のプロポーズには、相手が亡くなった時食糧を失った自分もともに朽ちます、という意味も含まれている。
　美汪は穏花の肌に傷をつけたその瞬間から、まさにその誓いを立てていた。
　つまり今現在、穏花と三日間会えていない美汪は、何一つ口にしていなかった。
　健気に操を立てているわけではない。
　単純に、穏花以外の血を欲しいと思わなかった。
　もはや美汪は彼女の血液でしか満たされない身体に成り果てていた。
　なぜ、穏花のものだけあれほど美味に感じるのか？　奇妙だったのは最初だけで、すぐに検討はついた。


「…………穏花……」　


　美汪のすべては、崩壊の一途を辿っていた。