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あふれる想い

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「アプリコットティーなんだけど……疲れた時とか、元気が出ない時に飲むと落ち着くんだ。あ、本当は学校にはお茶以外持って来ちゃダメだから内緒ね!?」

 穏花には他意がなかった。
 自分をよく見せたい、気に入られたい、恩を売りたい……そういった人間特有の感情がなかった。
 そこにあったのは、ただ純粋に相手を気遣う“善意”のみ。

「味に好みがあると思うから、苦手なら捨ててくれていいから」

 そう言って穏花は、ベッドの傍らにあるテーブルにそれを置いた。

「体調、よくなるといいね。じゃあ、私は行くね、バイバイ」

 少女の向日葵のような笑顔、芽吹いたばかりの緑を思わせる爽やかな空気。

 ――――美汪は、光を見た。
 それは例えるならば、朝日の眩しさに小鳥が目覚め、太陽に向かい一心に羽ばたいていくような、そんな清々しい光だった。
 
 

 たったこれだけのことで、吸血王は恋に落ちた。



 その気になれば全世界も手に入れられる知恵と力量を持つ彼は、退屈とも呼べる平穏な日常の中、何気ない場面で運命と出会ったのだ。

 美汪は黙ったまま、テーブルの上で柔らかな湯気を揺らしている飲み物を見つめていた。
 
 身体が受け付けないのを知りながら、美汪は生まれて初めて血液以外のものを、無理矢理体内に流し込んだ。
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