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あふれる想い

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「サッカーボール蹴ろうとしたら踏んで転んじゃって、顔面がぶつかりそうになったのを手で阻止したら……こうなっちゃった。よくやるんだけどね」

 困ったように笑いながら言う穏花の掌から、美汪はなぜか目が離せなかった。
 いや、掌からではない。
 その肌に浮かんだ紅い液体に、視線を奪われたのだ。

 ――あれを舐めれば、一体どんな味がするんだろう?

 そんな考えが脳裏をよぎるほど、美汪は食欲を駆り立てられた。思わず、喉を鳴らしてしまうほどに。

 ――何を考えてるんだ、僕は。

 美汪は心の中で先ほどの思考を振り払うと、またカーテンを閉め、自分だけの空間に戻って行った。
 
「あ、ありがとうね、体調悪いのにわざわざ教えてくれて」

 穏花の礼に答えることもせず、美汪はベッドに横になった。

 カーテンの向こうでカチャカチャと何やら作業をする音が聞こえる。恐らく薬箱から消毒液などを出し、傷の手当てをしているのだろう。
 そしてその音が鳴り止んだ頃、すぐ側でまた彼女の声が聞こえた。
 穏花はカーテンをほんの少し開けて、遠慮がちに中を覗いていた。

「あ、あの、黒川君」
「今度は何」
「これ……もし、よかったら」

 不意に漂った甘酸っぱい香りが鼻をくすぐる。
 ベッドに腰かけ、カーテンを開いた美汪に、穏花は紙コップに入った温かな紅茶を差し出していた。それを持つ両手は、不器用に貼りつけられた絆創膏だらけだった。
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