101 / 142
あふれる想い
21
しおりを挟む
すると、保健室のドアが開く音がして、美汪は一瞬、またか、とやや苦い顔をしたのだが。
「先生、せんせーい、いませんかぁ? ……あれ、留守なのかな? 勝手に入っちゃって大丈夫かな……」
その様子から、どうやら自分を目当てに来た野次馬のような女子ではない、と判断した美汪は、カーテンを引いてベッドを降りると彼女の前に姿を見せた。
「――うわっ!? び、びっくりした! 誰もいないと思ったから」
「……保健の先生なら留守だよ、職員室に行ってる」
「そうなんだね。……黒川君、体育休みだったの? あ、全然しゃべったことなかったよね!? 私、同じクラスの」
「萌木穏花でしょ」
「あ、う、うん」
記憶力のいい美汪は、すぐに人の顔や名前などを暗記してしまう。
特にクラスで目立つタイプでもない、なんの変哲もない平凡な女生徒。この時の美汪の穏花のイメージはそうだった。
……しかし、美汪は少し驚いていた。
自身が野外の体育を休み、保健室にいることは公然の事実のようだったため、未だにそれを知らない生徒がいたことを知ったからだ。彼女はよほど噂に興味がないのか、と思った。
「……君は何をしに来たの?」
「えーと、私はねぇ」
穏花は持っていた水筒を棚に置くと、舌を出しながら両掌を顔の前で提示して見せた。
その表面は痛々しく擦りむけて、血が滲んでいた。
「先生、せんせーい、いませんかぁ? ……あれ、留守なのかな? 勝手に入っちゃって大丈夫かな……」
その様子から、どうやら自分を目当てに来た野次馬のような女子ではない、と判断した美汪は、カーテンを引いてベッドを降りると彼女の前に姿を見せた。
「――うわっ!? び、びっくりした! 誰もいないと思ったから」
「……保健の先生なら留守だよ、職員室に行ってる」
「そうなんだね。……黒川君、体育休みだったの? あ、全然しゃべったことなかったよね!? 私、同じクラスの」
「萌木穏花でしょ」
「あ、う、うん」
記憶力のいい美汪は、すぐに人の顔や名前などを暗記してしまう。
特にクラスで目立つタイプでもない、なんの変哲もない平凡な女生徒。この時の美汪の穏花のイメージはそうだった。
……しかし、美汪は少し驚いていた。
自身が野外の体育を休み、保健室にいることは公然の事実のようだったため、未だにそれを知らない生徒がいたことを知ったからだ。彼女はよほど噂に興味がないのか、と思った。
「……君は何をしに来たの?」
「えーと、私はねぇ」
穏花は持っていた水筒を棚に置くと、舌を出しながら両掌を顔の前で提示して見せた。
その表面は痛々しく擦りむけて、血が滲んでいた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
【2章完結】あやかし嫁取り婚~龍神の契約妻になりました~
椿蛍
キャラ文芸
出会って間もない相手と結婚した――人ではないと知りながら。
あやかしたちは、それぞれの一族の血を残すため、人により近づくため。
特異な力を持った人間の娘を必要としていた。
彼らは、私が持つ『文様を盗み、身に宿す』能力に目をつけた。
『これは、あやかしの嫁取り戦』
身を守るため、私は形だけの結婚を選ぶ――
※二章までで、いったん完結します。
クレオメの時間〜花屋と極道〜
ムラサキ
恋愛
極道・百目鬼組。
その当主の一人娘である百目鬼小夜(ももめきさよ)はヤクザとバレぬように念入りな努力をして穏やかな高校生活をおくっていた。しかし、そんな生活も終わりを告げる。
ある日、小夜が極道の娘だということが学校内で広まってしまう。小夜は帰り道に涙を堪えられず、ある花屋に駆け込み涙を流した。
偶然にも、その花屋の店長は小夜が小さい頃に知り合っていた宇津井朔也(うついさくや)だった。
偶然の再会から動き出す小夜の運命はどうなるのか…。
身分の違い、年齢の違いの壁に立ち向かいながらひたむきに恋をする女の子のお話。
(不定期更新)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
お犬様のお世話係りになったはずなんだけど………
ブラックベリィ
キャラ文芸
俺、神咲 和輝(かんざき かずき)は不幸のどん底に突き落とされました。
父親を失い、バイトもクビになって、早晩双子の妹、真奈と優奈を抱えてあわや路頭に………。そんな暗い未来陥る寸前に出会った少女の名は桜………。
そして、俺の新しいバイト先は決まったんだが………。
無能な陰陽師
もちっぱち
ホラー
警視庁の詛呪対策本部に所属する無能な陰陽師と呼ばれる土御門迅はある仕事を任せられていた。
スマホ名前登録『鬼』の上司とともに
次々と起こる事件を解決していく物語
※とてもグロテスク表現入れております
お食事中や苦手な方はご遠慮ください
こちらの作品は、
実在する名前と人物とは
一切関係ありません
すべてフィクションとなっております。
※R指定※
表紙イラスト:名無死 様
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
生まれ変わり令嬢は、初恋相手への心残りを晴らします(と意気込んだのはいいものの、何やら先行き不穏です!?)
夕香里
恋愛
無実の罪をあえて被り、処刑されたイザベル。目を開けると産まれたての赤子になっていた。
どうやら処刑された後、同じ国の伯爵家にテレーゼと名付けられて生まれたらしい。
(よく分からないけれど、こうなったら前世の心残りを解消しましょう!)
そう思い、想い人──ユリウスの情報を集め始めると、何やら耳を疑うような噂ばかり入ってくる。
(冷酷無慈悲、血に飢えた皇帝、皇位簒だ──父帝殺害!? えっ、あの優しかったユースが……?)
記憶と真反対の噂に戸惑いながら、17歳になったテレーゼは彼に会うため皇宮の侍女に志願した。
だが、そこにいた彼は17年前と変わらない美貌を除いて過去の面影が一切無くなっていて──?
「はっ戯言を述べるのはいい加減にしろ。……臣下は狂帝だと噂するのに」
「そんなことありません。誰が何を言おうと、わたしはユリウス陛下がお優しい方だと知っています」
徐々に何者なのか疑われているのを知らぬまま、テレーゼとなったイザベルは、過去に囚われ続け、止まってしまった針を動かしていく。
これは悲恋に終わったはずの恋がもう一度、結ばれるまでの話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる