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あふれる想い

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 すると、保健室のドアが開く音がして、美汪は一瞬、またか、とやや苦い顔をしたのだが。

「先生、せんせーい、いませんかぁ? ……あれ、留守なのかな? 勝手に入っちゃって大丈夫かな……」

 その様子から、どうやら自分を目当てに来た野次馬のような女子ではない、と判断した美汪は、カーテンを引いてベッドを降りると彼女の前に姿を見せた。

「――うわっ!? び、びっくりした! 誰もいないと思ったから」
「……保健の先生なら留守だよ、職員室に行ってる」
「そうなんだね。……黒川君、体育休みだったの? あ、全然しゃべったことなかったよね!? 私、同じクラスの」
「萌木穏花でしょ」
「あ、う、うん」

 記憶力のいい美汪は、すぐに人の顔や名前などを暗記してしまう。
 特にクラスで目立つタイプでもない、なんの変哲もない平凡な女生徒。この時の美汪の穏花のイメージはそうだった。
 ……しかし、美汪は少し驚いていた。
 自身が野外の体育を休み、保健室にいることは公然の事実のようだったため、未だにそれを知らない生徒がいたことを知ったからだ。彼女はよほど噂に興味がないのか、と思った。

「……君は何をしに来たの?」
「えーと、私はねぇ」

 穏花は持っていた水筒を棚に置くと、舌を出しながら両掌を顔の前で提示して見せた。
 その表面は痛々しく擦りむけて、血が滲んでいた。
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