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あふれる想い

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 SやMなど、まったく耳にしたことがないと言えば嘘になるが、同年代の女の子に比べてかなりウブな穏花はそちら方面にとても疎い。
 その証拠に“サディズム”という文字を見ただけで少し頬を赤らめたが、好奇心が手伝ってつい食い入るように前のめりになっていた。

「え、えーと、何何……純血の吸血族は、加虐愛を好む傾向が……」

 ――と、そこまで読んだところで、窓に何かが当たる音がし、穏花は顔を上げた。

 遮光用のレースのカーテン越しに見えたのは、鳩程度の大きさをした真っ黒に羽ばたく二匹のコウモリだった。

 穏花は慌てて本を布団の上に置くと、ベッドから降りて窓を開いた。
 すると外から入って来たのは、紫の目が特徴的なコウモリで、一匹の片目がないことから先日美汪の城で会った二人だと判断できた。
 アベルとヨハンはオレンジ色のラグマットの床に留まると、人の姿に形を変えた。

「びっくりした! どうしたの、二人とも……寒かったでしょ?」

 穏花は窓を閉め、立ってこちらを見上げる二人に声をかけた。

「服着てるから寒くねえよ」
「でもコウモリの時は裸なんじゃ」
「……変なこと気にするな、あんた。吸血族は暑さに弱い分寒さには強いんだよ。まあ、混血の俺らにはそれも個人差があるけどな」
「そう、なんだ? じゃあみんながコウモリになるわけじゃないの?」
「ああ、バラバラだ……って、こんな世間話をしに来たわけじゃねえんだよ」

 砕けた物言いのアベルが自分にあきれたようにため息をつくと、独眼のヨハンがそれに続くように口を開く。
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