92 / 142
あふれる想い
12
しおりを挟む
――あれから三日、穏花は体調を崩し、家に閉じこもっていた。
本当は学校に行けないほど具合が悪かったわけではないが、どうしても美汪に会わせる顔が見当たらず、部屋に引きこもってしまった。
症状は微熱と身体のだるさ、軽い目眩。
これが棘病のせいなのか、単なる風邪なのか、美汪のことを考えすぎた精神面から来る知恵熱なのか、原因は定かではなかった。
花弁は昨日、昼間に一枚、そして今朝に、三枚吐いた。美汪に血を吸われず数日経過したからだろう、枚数が増え、しかも淡いピンクのような色がつき始めた。
しかし穏花は、美汪から「進行が遅かった」と言われていたため、それを信じきり、きっと大丈夫だろうと悠長にかまえてしまった。
今の穏花の心はすべて美汪のものだった。
不治の病への恐怖さえ、入り込む隙間がないほどに。
美汪の吸血痕が薄くなると心細くなり、もっと深く刻んでほしいと彼の名残を指でなぞった。
学校を休んだ穏花は、連日、美汪に渡された書物を読むことに没頭していた。
古くに作られたものなのだろう、硬い表紙に書かれた文字はやや霞んでおり、中のページには黄ばみが見られた。
それでも折れや破れはなく、美汪がどれだけ丁寧に扱っていたのかがよくわかった。
不器用な穏花は何をするにも人より時間がかかるため、本を読むのも苦手で、相当な時間を要する。
そんな穏花が一言一句誤らないように、噛みしめるように文字を追っていた。
そこに書かれていたのは、吸血族、そして雑食族と呼ばれた者たちの真実の歴史だった。
本当は学校に行けないほど具合が悪かったわけではないが、どうしても美汪に会わせる顔が見当たらず、部屋に引きこもってしまった。
症状は微熱と身体のだるさ、軽い目眩。
これが棘病のせいなのか、単なる風邪なのか、美汪のことを考えすぎた精神面から来る知恵熱なのか、原因は定かではなかった。
花弁は昨日、昼間に一枚、そして今朝に、三枚吐いた。美汪に血を吸われず数日経過したからだろう、枚数が増え、しかも淡いピンクのような色がつき始めた。
しかし穏花は、美汪から「進行が遅かった」と言われていたため、それを信じきり、きっと大丈夫だろうと悠長にかまえてしまった。
今の穏花の心はすべて美汪のものだった。
不治の病への恐怖さえ、入り込む隙間がないほどに。
美汪の吸血痕が薄くなると心細くなり、もっと深く刻んでほしいと彼の名残を指でなぞった。
学校を休んだ穏花は、連日、美汪に渡された書物を読むことに没頭していた。
古くに作られたものなのだろう、硬い表紙に書かれた文字はやや霞んでおり、中のページには黄ばみが見られた。
それでも折れや破れはなく、美汪がどれだけ丁寧に扱っていたのかがよくわかった。
不器用な穏花は何をするにも人より時間がかかるため、本を読むのも苦手で、相当な時間を要する。
そんな穏花が一言一句誤らないように、噛みしめるように文字を追っていた。
そこに書かれていたのは、吸血族、そして雑食族と呼ばれた者たちの真実の歴史だった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
蛇に祈りを捧げたら。
碧野葉菜
キャラ文芸
願いを一つ叶える代わりに人間の寿命をいただきながら生きている神と呼ばれる存在たち。その一人の蛇神、蛇珀(じゃはく)は大の人間嫌いで毎度必要以上に寿命を取り立てていた。今日も標的を決め人間界に降り立つ蛇珀だったが、今回の相手はいつもと少し違っていて…?
神と人との理に抗いながら求め合う二人の行く末は?
人間嫌いであった蛇神が一人の少女に恋をし、上流神(じょうりゅうしん)となるまでの物語。
管理機関プロメテウス広報室の事件簿
石動なつめ
キャラ文芸
吸血鬼と人間が共存する世界――という建前で、実際には吸血鬼が人間を支配する世の中。
これは吸血鬼嫌いの人間の少女と、どうしようもなくこじらせた人間嫌いの吸血鬼が、何とも不安定な平穏を守るために暗躍したりしなかったりするお話。
小説家になろう様、ノベルアップ+様にも掲載しています。
狐娘は記憶に残らない
宮野灯
キャラ文芸
地方に引っ越した高校生の元へ、半分狐の女の子が助けを求めてやってくる。
「私……山道で、不気味な光を見たんですっ」
涙目でそう訴えてきた彼女を、彼は放っておくことができなかった。
『狐火』に『幽霊店舗』に『影人間』に『存在しないはずの、四百十九人目の高校生』――
じわりじわりと日常に侵食してくる、噂や都市伝説。
それらは、解くことができる謎か、マジの怪談か。
高校の幼なじみたちが挑む、ライトなホラーミステリー。
九尾の狐に嫁入りします~妖狐様は取り換えられた花嫁を溺愛する~
束原ミヤコ
キャラ文芸
八十神薫子(やそがみかおるこ)は、帝都守護職についている鎮守の神と呼ばれる、神の血を引く家に巫女を捧げる八十神家にうまれた。
八十神家にうまれる女は、神癒(しんゆ)――鎮守の神の法力を回復させたり、増大させたりする力を持つ。
けれど薫子はうまれつきそれを持たず、八十神家では役立たずとして、使用人として家に置いて貰っていた。
ある日、鎮守の神の一人である玉藻家の当主、玉藻由良(たまもゆら)から、神癒の巫女を嫁に欲しいという手紙が八十神家に届く。
神癒の力を持つ薫子の妹、咲子は、玉藻由良はいつも仮面を被っており、その顔は仕事中に焼け爛れて無残な化け物のようになっていると、泣いて嫌がる。
薫子は父上に言いつけられて、玉藻の元へと嫁ぐことになる。
何の力も持たないのに、嘘をつくように言われて。
鎮守の神を騙すなど、神を謀るのと同じ。
とてもそんなことはできないと怯えながら玉藻の元へ嫁いだ薫子を、玉藻は「よくきた、俺の花嫁」といって、とても優しく扱ってくれて――。
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
眠り姫は君と永遠の夢を見る
望月くらげ
青春
『――だから決めたんだ。どんなことがあったとしてももう君に嘘は吐かないって。』
とあることがきっかけで人の嘘を見破る能力が芽生えた詩月は、息をするように嘘を吐く人間のことを信じることができない。
詩月はどこか人と距離を置きつつもそれとなく日々を過ごしていた。
そんな詩月には大嫌いな幼なじみがいる。詩月のことを気にかけて心配し続ける凪人。
凪人は昔、嘘を吐いたせいで詩月の病気の発見が遅れてしまったことを悔やんでいた。
話しかけることも視界に入ることもなく、少し離れたところから詩月のことを見守り続ける凪人。
そんな凪人のことが詩月は大好きで、それから大嫌いだった。
ある日、詩月は自分の病気が再発したことを知る。
時を同じくして、凪人は自分が現代の奇病、通称『眠り姫』に罹ってしまったことを知った。
それは身体に充満していく毒素を中和するため、長い眠りについてしまうという病だった。
凪人は自分の病のことを伏せ、詩月に寄り添うことを決めた。
ただ凪人のそばで笑っていたい。
凪人と一緒の未来を思い描き手術を受けることを選ぶ詩月。
そんな詩月が凪人にしたお願いは
『目覚めたとき、そばにいてほしい』
ということだった。
詩月の願いを叶えるために、凪人はある決断をする――。
これは嘘を見破ることのできる能力をもった余命僅かな少女と
『眠り姫』という現代の医学ではどうにもできない病に罹ってしまった少年の
優しくも切ない恋物語。
「目覚めたとき、必ずそばにいるって約束する」
そのために、たとえもう二度と眠りの世界から戻れなくなったとしても――。
軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~
takahiro
キャラ文芸
『こんにちは! 妙高型重巡洋艦の一番艦、妙高です! 妙高は今、コスタリカにあるプエルト・リモン鎮守府、長門様が率いる第五艦隊に所属しています。親友の高雄やちょっと変わった信濃、駆逐艦の峯風ちゃん、涼月ちゃん。頼れる仲間と一緒に、人々を守るため、人類の敵アイギスと日夜戦いを繰り広げています! 今日はちょっと変わった任務で――高雄、危ない!! え……? 長門様、どうして……?』
『我々人類は本当の意味で機械を操れてはいないのです。我々は常に計器で機械の状態を把握し、ボタンやレバーで間接的に制御している。だから私は、機械と人間とを直接に繋ぎ合わせ、五感のように機械を把握し、手足を動かすようにそれを動かせる、そんな方法を研究しているのです。東條参謀長殿、いかがですか?』
『マイン・フューラー(我が総統)、命令を。スターリンもチャーチルも、我が艦載機で雑作もなく殺してやりましょう。――え? どっちも殺さないで欲しい?』
『タヴァーリシ(同志)スターリン、御命令を。我らが祖国を侵す敵は全て、この私が殲滅いたします。――決して沈んではならない、ですか。無論、政治的に私が沈むわけにいかないことは――そういうことではない?』
『――船魄(せんぱく)。それは軍艦を自らの手足のように操る少女達。艦が肉体であるのなら、私達はその魂。艦そのものである私達が操る軍艦に、人間が対抗することは不可能に近いわ。人類が最初に手にした船魄は、日本がフィリピン沖海戦で投入した瑞鶴、つまり私ってわけ。私は日本を守るためアメリカと戦い、奴らから全てを奪ってやった。その代わりに何もかも失ったけど。この話、聞きたい?』
本作のメインテーマは、あくまで史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。
なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。
少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください
また作者のやる気に繋がるので、お気に入り登録や感想などお待ちしています。
毎日一話更新していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる